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逃げ馬はなぜ“強くなった”のか? 逃げの名手・中舘英二に聞いた理由「スピードを追求してきた結果」「ツインターボは乗るのが怖かった…」
text by
田井秀一(スポーツニッポン)Shuichi Tai
photograph byPhotostud
posted2022/11/05 11:03
天皇賞・秋で大逃げを打って2着となったパンサラッサ。レース前、鞍上の吉田豊は思い描く理想のレース展開を明かしていた
(3)「自在型」
最後は、現代の逃げ馬のほとんどが該当する。展開に応じて脚質を使い分けられる優等生な逃げ馬だ。
例えば、キタサンブラックはGIを7勝しているが、そのうち逃げ切りは'16年天皇賞・春、'16年ジャパンC、'17年有馬記念の3回。出遅れた'17年天皇賞・秋は3コーナー11番手から巻き返して勝ちきっている。古くは、歴代最多入場人員数(19万6517人)を記録した'90年ダービーを逃げ切ったアイネスフウジンも実は「自在型」。手綱を取っていた中野栄治現調教師は「逃げ一辺倒の馬じゃないから、逃げるつもりはなかったけど、1コーナーで簡単に先頭に立っちゃって、“えっ、いいの?”って感じだった」と当時を振り返る。逃げた姿の印象が強いアイネスフウジンだが、もう一つのGIタイトル・朝日杯3歳Sは好位追走から抜け出して勝っている。
「自在型」の逃げ馬には、アイネスフウジンにとってのメジロライアンのように、強烈な末脚を持つ難敵がいたケースが多い。サニーブライアンはメジロブライト、セイウンスカイはスペシャルウィーク、ダイワスカーレットはウオッカ、タップダンスシチーはシンボリクリスエスをそれぞれ負かすため、より前へ意識が働いた結果が逃げに繋がったのではないか。どの位置取りからでも能力は出せるが、勝つための最良の手段が逃げであった時に、それを選択できるレースセンスがあった馬たちとも言える。同型がいない菊花賞、天皇賞・春は逃げ切り、宝塚記念は臨機応変に2番手に控えたタイトルホルダーも「自在型」の1頭だろう。
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