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逃げ馬はなぜ“強くなった”のか? 逃げの名手・中舘英二に聞いた理由「スピードを追求してきた結果」「ツインターボは乗るのが怖かった…」 

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田井秀一(スポーツニッポン)

田井秀一(スポーツニッポン)Shuichi Tai

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posted2022/11/05 11:03

逃げ馬はなぜ“強くなった”のか? 逃げの名手・中舘英二に聞いた理由「スピードを追求してきた結果」「ツインターボは乗るのが怖かった…」<Number Web> photograph by Photostud

天皇賞・秋で大逃げを打って2着となったパンサラッサ。レース前、鞍上の吉田豊は思い描く理想のレース展開を明かしていた

 同じ「大逃げ型」でも、いずれも二桁人気で大波乱を演出したイングランディーレ('04年天皇賞・春)、クィーンスプマンテ('09年エリザベス女王杯)、ビートブラック('12年天皇賞・春)はタイプが違う。3頭ともに当該レースの前走で逃げていなかったように徹底先行型ではなく、ライバルの意表を突いてスポット的に大逃げを敢行した。イングランディーレの場合は4歳4強と呼ばれたゼンノロブロイ(2着)、ネオユニヴァース(10着)、リンカーン(13着)、ザッツザプレンティ(16着)が互いに牽制し合う中、独走のゴールイン。クィーンスプマンテはブエナビスタ(単勝1.6倍=3着)、ビートブラックはオルフェーヴル(単勝1.3倍=11着)にマークが集中する間隙を突いた。このタイプの大逃げでGIをもぎ取った馬はビートブラック以来10年以上出ていないが、3頭の三冠馬対決が大きな話題となった'20年ジャパンCで大逃げを打ったキセキのように、全く企図されなくなったわけではない。例に挙げた3頭はいずれも京都競馬場で大逃げを成功させており、筆者個人は改修工事中の京都競馬場のリニューアルオープンに合わせて、伝説的な伏兵の大逃走劇の歴史が繰り返される予感がしている。

(2)「快速型」

 日本で一番有名な逃げ馬サイレンススズカが最たる例で、逃げる理由が最もシンプル。他馬より脚が速いから。序盤から先頭を奪い、後半もペースを落とさない“逃げて差す”。武豊が「サラブレッドの理想」と表現したその域に最も近づいたのがスズカだった。

 '92年に無敗で皐月賞、ダービーを逃げ切ったミホノブルボン、'76年朝日杯3歳S含む8戦全勝の“スーパーカー”マルゼンスキー、杉本清アナウンサーの「後ろからは何にも来ない」の実況でおなじみの'75年牝馬2冠馬テスコガビーも、他の追随を許さないスピードで逃げまくった。

 この錚々たるレジェンドへの仲間入りが期待される現役馬が“サイレンススズカの再来”と評されるジャックドール。スズカが'98年に大差勝ちした金鯱賞を今年、従来のコースレコードを1.1秒も上回るタイムで逃げ切り、その圧倒的なパフォーマンスにスズカの姿を想起したファンは多かった。ゲートが開くと同時に先頭に立つ抜群のスタートセンスと天性のスピードがジャックドールの武器。まだ伝説の逃げ馬たちを引き合いに出すのは時期尚早だが、スズカ以来の「快速型」の登場を夢想するに足るポテンシャルを感じさせる馬であることは間違いない。

【次ページ】 (3)「自在型」

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