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イクイノックスが見せた「ラスト2完歩の逆転劇」 観客を沸かせた大逃げ、強さを証明した3歳世代…天皇賞・秋はなぜ名レースになった?
posted2022/10/31 12:26
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Photostud
「未完の大器」と言われた「天才」が、完成途上のまま、競馬史を書き換える大仕事をやってのけた。
第166回天皇賞・秋(10月30日、東京芝2000m、3歳以上GI)で、クリストフ・ルメールが騎乗した1番人気のイクイノックス(牡3歳、父キタサンブラック、美浦・木村哲也厩舎)が優勝。1984年のグレード制導入以降の最少記録となる、デビュー5戦目での古馬GI制覇という偉業を達成した。今年の平地GIで初めて1番人気の馬が勝ち、昨年のホープフルステークスからつづいていた平地GIでの1番人気の連敗記録は「16」でストップした。
“ラスト2完歩”の逆転劇
1000m通過が57秒4というハイペースで大逃げを打った吉田豊のパンサラッサが、2番手を20馬身近く離したまま4コーナーを回り、直線に入った。
イクイノックスは中団の外目。パンサラッサははるか前方にいる。
ラスト400m地点でもパンサラッサの逃げ脚は鈍らない。前がひらけ、スパート態勢に入ったイクイノックスとの差はまだ10馬身以上ある。
はたしてここから届くのか。
ラスト300m付近でルメールが右ステッキを入れた。それに応えてイクイノックスが末脚を伸ばし、ラスト200mを切ったところで内のジャックドールに並びかけた。パンサラッサは5馬身ほど前だ。
イクイノックスがジャックドールを競り落とし、パンサラッサを追いかける。1完歩ごとに差を詰め、ゴールまでラスト2完歩のところで並びかけ、瞬時に抜き去った。
勝ちタイムは1分57秒5。イクイノックスが繰り出した上がりは、メンバー最速の32秒7だった。ルメールはこう振り返る。
「春はアンラッキーでしたが、能力が高いので、秋からは勝つ自信がありました。今日は本当のイクイノックスを見ることができました。直線に向いてパンサラッサを見たときは結構心配しましたけど、速いペースだったので、パンサラッサは最後疲れていました。逆に、イクイノックスは加速しましたし、よく頑張ってくれました」
2000mの天皇賞・秋に3歳馬が出走可能になった1987年以降、96年バブルガムフェロー、2002年シンボリクリスエス、2021年エフフォーリアに次ぐ4頭目となる3歳馬による勝利をおさめた。