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逃げ馬はなぜ“強くなった”のか? 逃げの名手・中舘英二に聞いた理由「スピードを追求してきた結果」「ツインターボは乗るのが怖かった…」 

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田井秀一(スポーツニッポン)

田井秀一(スポーツニッポン)Shuichi Tai

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posted2022/11/05 11:03

逃げ馬はなぜ“強くなった”のか? 逃げの名手・中舘英二に聞いた理由「スピードを追求してきた結果」「ツインターボは乗るのが怖かった…」<Number Web> photograph by Photostud

天皇賞・秋で大逃げを打って2着となったパンサラッサ。レース前、鞍上の吉田豊は思い描く理想のレース展開を明かしていた

「人間にも集団行動が苦手な人がいるように、馬にも臆病で馬群を好まない馬がいる。瞬発力が劣るので他馬と同じ位置からレースをしていても勝てない馬もいる。一言で逃げといっても、ペース配分もスパートするタイミングも乗る馬によって全く違います」

 多種多様な相棒と700以上の逃げ切りを決めた名手の言葉は重要だ。「逃げ」と一括りにせず、タイプ分けして考えるのが良いだろう。(1)「大逃げ型」(2)「快速型」(3)「自在型」に分類して掘り下げてみる。

(1)「大逃げ型」

 スタートからハイラップを刻んで後続を大きく引き離す逃げを打つ。中舘とのコンビで七夕賞、オールカマーを逃げ切ったツインターボが代表例だ。同馬は中舘が「乗るのが怖かった」と振り返るほどの気性難。馬群に入ることができないため、「出遅れて逃げられなかったら馬がパニックになって僕は死ぬかも知れないと思っていた」と最悪の事態すら覚悟していたという。「気分よく、機嫌を損ねないように」マイペースで走らせた結果が、ファンを魅了する大逃げにつながった。

 現役ではパンサラッサが中山記念、福島記念と2つの国内重賞で大逃げを決めた。“令和のツインターボ”の二つ名が浸透しているが、こちらは気性難というよりも持ち味である持久力を生かすための大逃げ。主戦の吉田豊は「長くいい脚を使える長所、瞬発力があまりない短所を併せ持つ馬です。そのため、ハイペースで引っ張り、後続に脚を使わせて消耗戦に持ち込むのがパンサラッサには最も合っています」と解説する。2頭に共通するのは、自らの性質から大逃げが最も適した脚質である点。それを象徴するように、両馬は4角先頭からの逃げ切りでしか勝ったことがない。

 大きな違いもある。パンサラッサは現代競馬のトレンドともいえる海外遠征(2022年ドバイターフ)でGIタイトルを手に入れた。ただ大逃げ馬がハマれば常識外れの力を発揮することを国内のライバルは承知済み。大一番では「大逃げ型」の勝ちパターンになかなか持ち込ませてもらえない。後続を離した単騎逃げを得意としたエイシンヒカリも海外GIは2度('15年香港カップ、'16年イスパーン賞)逃げ切ったが、国内GIのハードルは高かった。決して器用ではない「大逃げ型」にとって、最適鞍を世界中に求めることができる大航海時代のメリットは大きい。ツインターボも、もしも海外遠征のノウハウが確立された時代に生まれていれば、後輩達同様に、その真価を知らない外国勢を相手に颯爽と逃げ切って、GI馬の仲間入りを果たしていたかもしれない。

【次ページ】 (2)「快速型」

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