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良血なのに“超遅生まれ”のせいで…競走馬と“生まれ月”の関係を知っていますか「早生まれの馬を作ることが経済的にも大きなメリット」
posted2022/10/16 17:00
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
Keiji Ishikawa
犬や猫のような愛玩動物は、人間同様に誕生日を祝ってもらいながら一つずつ年齢を重ねて行くが、競走馬の場合は毎年1月1日に一斉に年をとる。今年生まれた馬なら、誕生日に関係なく、新年を迎えた時点で全馬が1歳となるのだ。
発情期の関係で、北半球産の馬はほとんどが1月から6月の間に生まれるが、それでも最大で6カ月の差が出る。セオリーとして、特に2歳戦の早い時期に行われる競走においては、生まれ月による成長の差を予想上のファクターとして考える必要があると覚えておかれたい。
付け加えれば、季節が正反対の南半球の馬は7月から12月に生まれるため、馬齢は毎年7月1日か8月1日に一斉に加算される。このあたりは国際的なルールで定められている。
馬の妊娠期間は人より少し長く、最終種付け日の11カ月後が出産予定日となる。5月7日生まれのドウデュースが最優秀2歳牡馬となり、ダービーも勝ったというのは非常に珍しい例で、生産者としては1月か2月に生まれるのを理想として、繁殖牝馬の早い時期の発情を待つ。毎年7月に行われるセレクトセール当歳市場には、5月、6月に生まれた子馬はまず出番がないという事情もあり、早生まれの馬を作ることが経済的にも大きなメリットになる。
あと5日誕生が遅ければ…
'19年12月27日にノーザンファームで生まれたプリーミー(牡3歳、父ドゥラメンテ、母アトミカオロ、川崎・佐々木仁厩舎)は、あと5日だけ世に出ることを踏みとどまっていればまだ2歳。クラシック候補だったかもしれない。
というのも、9月13日の川崎競馬第1レース(3歳8組、ダート1400m)で、2着に2秒差をつける大差勝ちというド派手なデビューを飾ったからだ。これほどの極端に不利な遅い生まれの馬が競走に出てくること自体が稀なのだが、母がアルゼンチン1000ギニー(日本の桜花賞にあたる)など6勝をあげた血統背景に期待されたものだろう。事実、全妹のアトミカオロ2022(牝0歳)が、今年のセレクトセールで1億1000万円で藤田晋氏に落札されている。
プリーミーの意味は「早産児」。南半球産馬なら2kgの斤量減がもらえるところだが、それもなく大差で勝ったというのは価値がある。新しいストーリーを刻むのかもしれない。