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大阪桐蔭・履正社が超名門化する一方で「甲子園は別のスポーツ」「廃部の道を…」公立校顧問らが語る“高校野球格差のリアル”
 

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清水岳志

清水岳志Takeshi Shimizu

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photograph byNanae Suzuki/Takeshi Shimizu

posted2022/10/03 11:00

大阪桐蔭・履正社が超名門化する一方で「甲子園は別のスポーツ」「廃部の道を…」公立校顧問らが語る“高校野球格差のリアル”<Number Web> photograph by Nanae Suzuki/Takeshi Shimizu

センバツ優勝の大阪桐蔭と“普通の公立校”…枚方なぎさ高顧問である磯岡氏に現場のリアルを聞いた

《ある構想を抱いています。それは高野連を脱退して新しい大会を作る。 「全国公立高等学校野球選手権大会」をほっともっとフィールド神戸で行う。 約2年4カ月頑張ってきたのですが、大阪では1回戦で強豪私学、中堅私学とあたる可能性が多々あります。 そして5回コールドで高校野球が終わる。あまりにもつらいです》

 “実現可能かどうかはわかりません”という机上の構想だが、切迫感が伝わってきた。

2人に声をかけて“ギリギリ9人”の大会出場

 メールの送り主は磯岡裕教諭(44歳)。枚方なぎさ高校硬式野球部の顧問である。部長、監督ではないので比較的自由に発言ができる立ち位置ではある。

 高校生当時、府立牧野高校では野球部所属だったが、学業に専念するために大学では野球部には入らなかった。ただ府立教員になってからは、枚方津田高校や牧野で計13年間、責任教諭や監督を務めてきた。

 そんな彼が顧問を務める枚方なぎさの現状を知ると、高校野球の格差を思い知らされる。 

 同校は2002年に枚方西高校と磯島高校が合併して開校した。1学年6クラスで240人、全校生徒700人ほど。特色は芸術系、看護系があることで、女子に人気のごく普通の公立校だ。ハード面は“府内で一番”と言えるほど、グラウンドが狭いという。さらにマウンドはなく、陸上部が走る時はベースが邪魔になるので、一旦外すのだという。

 そもそも、野球部の存続自体が危うい。部員は2年生が3人、1年生が4人。ちなみに3年生は5人だった。

 秋の大会は8月28日、強豪の大体大浪商と当たって初戦コールド負けを喫した。この時は“中学で野球をやっていた”という2年生2人に声をかけて、ギリギリ9人で戦ったという。

甲子園の高校野球は僕からしたら別のスポーツ

 まずは部員減少を止められないか。それが今、磯岡の大命題である。

 5月に1つの案を考えついた。ツイッター、インスタグラムで〈コース別部員募集〉を発表。来年度から本格的な募集に入るという。

 同コースには『BE STRONG』『Practice』など4つのコースがあり、各自の希望で日々の練習内容や練習時間が選べる。例えば『BE STRONG』コースならフルタイムの練習時間で、主力選手として公式戦出場を目指す。一方、『Practice』コースなら日曜と平日のうち1日は練習を休み、兼部も可能で野球の楽しさを実感することが目的になる。

 私学と違って、入ってくる部員のレベルはまちまちだ。中学野球の経験者もいるし、中学時代はテニス部だったという部員もいる。技術を向上させてゲームに勝つ、という最終目標は共有しながらも、それぞれのゴールは実力に見合ったものでいい。

「Practiceの部員にならないかと話を勧めてみましたが“僕らの役目は終わりました”と言って彼らは試合が終わると、いつもの高校生に戻りました」

 メールから数日後、磯岡のもとを訪ねると、苦笑いしながら、秋大会に出場してくれた2人について話すとともに、現場で感じる高校野球の現状についてこう語る。

【次ページ】 高校野球の格差は中学の時から始まっているという

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