高校サッカーPRESSBACK NUMBER
“見えない所での体罰や暴力が消えていく”ある高校サッカー部の斬新な方法とは 「1年リーダーに3年が従う」「取っ組み合いが起きても…」
text by
加部究Kiwamu Kabe
photograph bySports Graphic Number
posted2022/09/11 11:01
高校サッカーでも新たな指導スタイルを標榜する指導者が増えている(写真はイメージです)
「選手たちは自分たちで考えて時間をコーディネートしていく。週に2度の全体練習なら、試合日を除いても自由に考えて過ごす4日間がある。オフの日に自主トレが必要だと思えば、メニューを考えて取り組む。フィジカルを強化したい選手はウエイトトレーニングをするし、走れないと感じているなら走力を鍛えても良い。
あるいは故障をしていれば休むし、リラックスするためにデートをするのも良い。僕が『やれ!』と言うより、自分でやるべきことを見つけて取り組む方が2~3倍は速く身につく。またノートにメニュー等も書き込むから『ここは少しこうした方が……』などとアドバイスも出来る。分け隔てなく隠しごともしないでみんなとの距離を縮めているから、いざという時に選手たちの心にスッと入っていけるんです」
指導者はファシリテイターであるべき
安芸南に赴任してからは全員リーダー制を導入した。チーム全員が、必ず何らかのリーダーになる。1年生のビブスリーダーが「みんなここに置いてください」と指示すれば、3年生も黙って従う。場面ごとにリーダーが変わり一人一人が「チームに必要なんだ」という意識を持つから、陰湿な縦関係も薄れ体罰や苛めの入り込む余地がなくなった。
全体練習は週に2度だけなので、徹底して質にはこだわる。人、ボール、ゴール、スペースがあるというサッカーの基本を踏まえ、技術、戦術を織り込み、広島観音高校時代は脈拍を180~200まで上げるメニューを20分×6本実践して来た。
それでも旧来の量に頼るトレーニングに慣れてきた選手たちは、当初半信半疑だった。そこで畑は当時最も長い時間走り込んでいた強豪校に練習試合を申し込む。結果は走り勝って快勝。敗れた強豪校は、その後数週間続けて再戦を申し込んできたが、ことごとく跳ね返してしまった。また柏木陽介、槙野智章、森脇良太ら、後のJリーガー10人を擁したエリート集団のサンフレッチェ広島ユースにも2-1で勝利している。
勝利至上ではない“魅力的なチーム作り”
勝利至上ではなく、魅力的なチーム作りを最優先しながら、しっかりと結果も残して来た。
「何より練習が週に2回なので、故障者も出ないんですよ」と笑う。
畑は、家の建築ではなく石の彫刻を創るように、育成指導をしていきたいと考えた。