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「朝練でタバコは当たり前、 カンニングも頻出」不良サッカー部が高校日本一に… 土台は高圧的な〈指示、命令、思考停止〉からの脱却

posted2022/09/11 11:00

 
「朝練でタバコは当たり前、 カンニングも頻出」不良サッカー部が高校日本一に… 土台は高圧的な〈指示、命令、思考停止〉からの脱却<Number Web> photograph by Kyodo News

2006年のインターハイで優勝した広島観音高校

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加部究

加部究Kiwamu Kabe

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Kyodo News

 学校部活動での体罰やパワハラが問題になる一方で、新たな指導の取り組み方で強さを手に入れているチームがある。全国高校サッカー選手権に出場するまで成長した高校を追った『「毎日の部活が高校生活一番の宝物」堀越高校サッカー部のボトムアップ物語』(竹書房)の一部を転載する(全3回の1回目/#2,#3へ)

任せる・認める・考えさせる」畑喜美夫の指導

 2012年、ゴールデンウィークに入ると堀越高校でAチームを指導する佐藤実は、広島県立安芸南高校でサッカー部監督を務める畑喜美夫を訪ねた。同校の体育教官室で畑の解説を聞き、ボトムアップ理論の原点となった広島大河フットボールクラブ(FC)の浜本敏勝総監督と会い、同理論で全国制覇を達成した広島観音高校も視察するなど忙しく駆け巡った。

 広島へ足を運ぶ段階で、既に選手たちには堀越高校もボトムアップ方式にシフトしていくことを伝えていた。決断を力強く後押ししたのは、波崎で行われた四日市中央工業戦だった。

 3泊4日の広島滞在で、佐藤は濃密な時を過ごし大きな収穫を得た。しかし反面それだけでは《まだ(理解が)薄いな……》と感じてもいたので、さらにその後も数回は広島へ出かけて、疑問点が出てくればその都度畑にアドバイスを仰いだ。

 当時「古豪」と呼ばれていた堀越高校が、その旧い衣を脱ぎ捨てようとしていた。

 広島で生まれ育った畑は、静岡県の東海大一高校(現・東海大翔洋高校)時代にU-17、順天堂大学へ進学後はU-20と、それぞれ年代別日本代表に選出され4年時には大学三冠を達成している。

昔は先輩が後輩を説教して殴るようなこともありましたが

 1965年生まれの畑は、小学2年生でボールを蹴り始めて以来、1度もトップダウンでの強制的、高圧的な指導に遭遇していない。この年代では非常に珍しく幸せな選手生活を全うした。とりわけ多大な影響を受け自身の原点ともなっているのが、最初にサッカーを満喫した広島大河FCの創設者で、小学5~6年生時代の担任でもあった浜本敏勝の指導だった。

「見て感じて気づいて実践する。それが浜本方式です。子供たちを試合へ送り出す時は『信じているから』『自信を持ってプレーしなさい』と伝え、あとは黙って見守る。任せるというのは、そういうことなんだと見せて頂きました」

 浜本は常々言っていた。

「試合が始まるまでが指導者の仕事。始まってしまったらそれからは子供たちの仕事だよ」

 試合中に「ノーコーチング」を貫くために、コーチにも保護者にも要請した。

「大きな声を挙げて「ああせい、こうせい」と言うのはやめてください」

 畑と同じく広島大河FCから静岡県の私立東海大一高校へ進む選手が目立つようになったのは、同校サッカー部を指導する望月保次監督の考え方が浜本と通底していたからだった。畑が述懐する。

【次ページ】 「体罰等を徹底排除する校風」だった大学で

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