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“見えない所での体罰や暴力が消えていく”ある高校サッカー部の斬新な方法とは 「1年リーダーに3年が従う」「取っ組み合いが起きても…」
posted2022/09/11 11:01
text by
加部究Kiwamu Kabe
photograph by
Sports Graphic Number
人として素晴らしい選手が試合に出られる
畑は2011年に安芸南高校へ異動すると、デジャヴのように広島観音高校時代をなぞった。
「安芸南でも、最初はサッカー部がお荷物扱いされていました。体育祭の要綱を見ると、サッカー部員だけは誰も役職がついていない。先生方は『彼らには何も任せられないよ』と言っていました。部室を見ても、まるでごみ箱のように汚れていましたね」
再び畑は自身が率先して掃除をしたり、整理整頓が行き届いた学校との交流を図ったりしながら「ウチも何かやってみようや」と投げかけ続けた。
「サッカーをするにも、まずは人間力という土台が要る。ケーキならスポンジの部分ですよね。そこがしっかりすると、トレーニングもゲームもしっかりしてくる。当たり前のことだけど、ボールを奪われたら追いかける。みんなで協力する。相手をリスペクトする……。技術や戦術は、その上に乗せるデコレーション (イチゴ)になります」
メンバー選考まで全てを選手に任せてしまうと往々にして選手同士での苛めや諍いが起こりがちだが、防止策も整っている。
「まず僕が選手たちと話し合って、メンバー選考の優先順位を決めたんです」
(1)社会性(2)賢さ(3)上手さ(4)強さ(5)速さ
要するに、どんなに上手い選手でも学校で問題を起こせば出番がない。
「強豪校では、あり得ないルールかもしれませんね。でも結局学校生活や練習でキチンとやっていない選手が試合に出ると、不満が出てくるものです。人として素晴らしい選手が試合に出る。裏返せば試合に出るためには、規律を守り勉強も頑張らなければならない。それが明確になると結果も出始めました」
全部員と交流を持つための「2冊のノート」
自主性は重んじても、完全に放任してしまうわけではない。常に2冊のノートを通じて、全部員と交流を続けた。
1冊は「サッカーノート」で、試合や練習メニューなどを書き込む。もう1冊は「トレーニングノート」だが、別名「コミュニケーションノート」とも呼ばれ、選手たちがオフの日の予定や何をしたのかを記していく。
広島観音高校時代の畑は、月、水、金曜日の朝8時に120冊のノートを受け取ると、全て返答を記して午後4時には戻した。 遠征に出た時でも、深夜の1~2時までに書いて、翌朝には選手たちに手渡していた。