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“見えない所での体罰や暴力が消えていく”ある高校サッカー部の斬新な方法とは 「1年リーダーに3年が従う」「取っ組み合いが起きても…」
text by
加部究Kiwamu Kabe
photograph bySports Graphic Number
posted2022/09/11 11:01
高校サッカーでも新たな指導スタイルを標榜する指導者が増えている(写真はイメージです)
「家の建築は、土台から始めて少しずつ上へと進む。一方彫刻は、全体を削りながら完成に近づけていくんです。例えばインサイドキックやトラップが出来ないと次に進めないのが家の建築方法。逆に多面的に進めていくのが彫刻です。守備が良くないからと、守備だけのトレーニングをするのではなく、守備が改善されるように戦術も組織作りも同時進行で全体像を追いかけていく」
部員に「今やろうと思ったのに…」と思わせてはいけない
練習中にも試合中にも自主的にミーティングが入り、ピッチ上でも活発に声をかけ合う。畑は、いつ、いかに質の高いヒントを、そこに投げ込むかを絶えず思考してきた。
「一番気をつけたのは、選手たちが動き出す瞬間を待つことです。彼らに『今やろうと思ったのに…』と思わせてはいけない。彼らが自分で気づいてやり出すのを待てるかどうか。それは指導者の重要な資質になります。サッカーは閃きが凄く大切なスポーツです。だから彼らの発想に制限をかけてはいけない」
指導者が「お~い、逆サイド」と叫べば、ボールを持つ選手の選択肢を奪ってしまう。逆サイドが見えていないと思ったら、あとから「今、どうしたら良かったのかな? 逆サイドはどうだったかね」と少しずつヒントを与えながら可能性を広げてあげるのが肝要だ。
「花の栽培と一緒。水をあげ過ぎても、あげなくても枯れてしまう。言わずに我慢する時と、アドバイスを送る時を見極めるのが僕らの仕事です」
指導者はファシリテイターであるべきだと主張する。
「世話人、まとめ役」と訳され、自ら上に立って牽引するのではなく、偏ることなく全員の意見を引き出し、合理的に相互理解を促し物事を円滑に進めていく。
「自分と違う意見が出ても、まずは認める。その中から善後策を探っていく。こうして進めて行けば、ミーティングは多ければ多いほど組織力が上がっていきます」
公の場で言い合う分、見えない所での体罰や暴力が消える
広島観音高校時代から、ピッチ上では腹蔵なく自由に言い合う習慣づけをして来た。その分、練習中に取っ組み合いにまで発展してしまうこともあった。
ちょうどテレビクルーの撮影中に勃発し「畑先生、この場面、流さないほうがいいですか?」と忖度して来たが、畑は仲裁に入ることもなく「どうぞ、どうぞ。すべて流してください」と答えた。ようやく両者が落ち着くと握手をさせて「今のはどうだった?話し合ってみようか」と促すのだった。