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中国勢対策に集中できない? 伊藤美誠、Tリーグ初参戦の“リアルな舞台裏”…選手も困惑する“パリ五輪の不透明な選考基準”
posted2022/09/09 06:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
KYODO
'24年パリ五輪まで2年となった今夏、卓球の東京五輪・金銀銅メダリストである伊藤美誠(スターツ)が、大きな決断を下した。世界ランクを上げるために国際大会を優先して研鑽を積んだ東京五輪前と路線を変え、国内の「Tリーグ」に初参戦することを決意。リーグ5連覇を目指す日本生命レッドエルフの一員として、9月10日開幕の戦いに挑むことになった。
東京五輪前の伊藤は、日本の主力選手でただ1人、'18年秋から始まったTリーグ参戦を見送る独自策を講じ、五輪で混合ダブルスの金メダルを含む3つのメダル獲得という大成功を収めた。世界ランクは最高で2位まで上がった。
今回、初のTリーグ参戦を決めたのは、日本卓球協会が定めたパリ五輪の代表選考基準が、従来の世界ランク重視から国内選考を重視した独自のポイントシステムへと変わったことによるもの。Tリーグもポイントの対象だ。
対・中国勢にエネルギーを集中させていけるのか
ただし、現時点でこの選考方法は正式に決定していない。今年7月に国際卓球連盟が示したパリ五輪の予選方式では、1カ国・地域最大2枠のシングルス代表権が世界ランク上位選手個人に与えられることになっており、日本の選考方法と合わないからだ。
日本協会は当面の間、国内ポイントを加味する方式でいくとしているが、最終的にどうなるかは不透明。当然ながら選手サイドは困惑を隠せず、伊藤も「決まったらすぐ伝えてほしい」と語っている。
伊藤の強みは自らの決断と実行力で高い技術を身につけてきたことだ。'16年リオデジャネイロ五輪以降、「打倒・中国勢」の方法論を突き詰め、そこに特化する取り組みには隙がなかった。
国内ポイント重視なら手の内を知り尽くす日本勢同士による心理的な消耗が大きい。対・中国勢にエネルギーを集中させていけるのかという不安がある。実際、8月13、14日に開催された「Tリーグ・ノジマカップ」の準々決勝で敗れた伊藤は、「国内の選手と戦うのが難しく感じる」と吐露していた。
Tリーグでは国際大会との兼ね合いを見ながら参戦日程を決めていくという。パリ五輪女子シングルス金メダルに一点集中するエースは、「どういう場面でも大丈夫なように実力をつけるしかない」と気丈に覚悟を示した。