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近江・山田陽翔や大阪桐蔭以上に「仙台育英5人継投」「下関国際の先発→救援」が機能… “勝利の方程式”が高校野球でも必須に? 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/09/01 06:00

 近江・山田陽翔や大阪桐蔭以上に「仙台育英5人継投」「下関国際の先発→救援」が機能… “勝利の方程式”が高校野球でも必須に?<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

近江・山田陽翔や強力投手陣の大阪桐蔭ではなく、仙台育英が夏制覇を成し遂げた要因とは?

441球 古賀康誠(左)(5試23回17三 率2.35)P/IP 19.18
353球 仲井慎(右)(5試21回26三 率3.43)P/IP 16.81
16球 松尾勇汰(右)(1試0/3回0三 率---)P/IP ---

 先発は5試合とも左腕古賀、奪三振と与四球が同じ17個という荒れ球ではあるが、勢いに乗れば相手を圧倒する。そして右腕の仲井にスイッチするというパターン。

 仲井はイニング数を上回る奪三振を誇るパワーピッチャーで与四球も少ない。仲井は「二刀流」で遊撃手としても活躍しているので、消耗は避けたいところ。準決勝の近江戦で、古賀が2回無死までに3四球を与えると、坂原秀尚監督は躊躇なく仲井をマウンドに上げると、仲井は8回自責点2の好投を見せた。古賀に行けるところまで行かせて、仲井にスイッチする作戦だった。

 下関国際は2018年の夏にも準々決勝まで進出しているが、前述の通り、当時は鶴田克樹が4試合全てで完投している。下関国際は4年の間に投手起用の方針を大きく変えたと言えるだろう。

強力な大阪桐蔭でも“勝利の方程式”になり切れなかった

 前評判が圧倒的だった大阪桐蔭は一級の投手陣をそろえていたが、端的に言えばそれがうまく機能しなかった。

235球 川原嗣貴(右)(2試17回 14三 率1.59)P/IP13.82
155球 前田悠伍(左)(2試9.1回 13三 率2.90)P/IP16.61
115球 別所孝亮(右)(3試6.2回 2三 率2.70)P/IP17.25
20球 小林丈太(左)(1試2回 1三 率0.00)P/IP10.00
12球 青柳佳佑(左)(1試1回 0三 率0.00)P/IP12.00

 先発は川原が2試合、前田、別所が各1試合だったが、救援に特化した投手が見当たらず、準々決勝の下関国際戦では救援に回った2年生の前田が打ち込まれて敗退した。

 今や、吉田輝星のように「エース1人」で戦うようなチームは、予選でさえも勝ち抜くことが難しい。「1週間500球」の球数制限以前の問題として、打者のパワーアップが著しく、1人の投手でねじ伏せるのが厳しいという印象を受ける。

 また、今年の近江のように「エース+控え投手」というパターンも厳しくなっている。

 これからの甲子園は先発投手が下りてからが勝負になるのではないか。マウンドを引き継ぐ救援投手がうまく流れを作ることで、勝利を引き寄せる。プロ野球のような精度感はないにしても「勝利の方程式」を意識すべき時期が来ていると思う。

「そうなれば、エース1人を作るのが精いっぱいの公立や一般の私学と、強豪私学との格差はますます開く」との指摘もあるだろう。ただ最初から「先発・救援」で投手を育成することで、それなりの「方程式」を作ることは可能ではないか。

 投手の起用数が増えれば、投手の肩ひじの負担が減る。選手の出場機会が増え、ベンチを温める選手が減る。ベンチ入り人数を20人程度に増やすべきだと思うが――高校野球の投手起用は、今、大きく変貌しつつある。

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