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甲子園の風BACK NUMBER
仙台育英に“70点以上の差”で負けても…「恥ずかしいと思ったら、生徒に失礼」宮城の35歳監督が語る“過疎地の高校野球”は今…
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byNumber Web
posted2022/08/29 11:01
全国高校野球選手権大会の参加校は2003年の4163校をピークに減り続けている。加美農・佐伯友也監督(35歳)に過疎地のリアルを聞いた
加美農にAチームで応戦した能代松陽の工藤明監督は、佐伯監督の姿勢に心から感心する。「東北大会のときトイレで用を足していたら佐伯監督が来て『秋田に行くので練習試合やって頂けませんか』と言われました。初対面です(笑)。聞くと、過疎の少人数野球部で奮闘しているとのこと。『秋田に来てくれるのでしたらいつでもお待ちしてます』とすぐ返事をしました」。工藤監督は母校の能代商に就任した当時、5年間県大会に行けなかった。勝利はおろか、部員減で存続の危機にも追い込まれたという。「あのとき、強い学校に練習試合を申し込むなんていう勇気はなかった。もし、羞恥心を捨てて佐伯先生のように飛び込んでいけば、もっと早く生徒を甲子園に連れて行けたかもしれません」。昔の自分を思い出し、懺悔の意味を込めて快諾したそうだ。
羞恥心――。この言葉も、佐伯監督を語る上で欠かせない一つのキーワードである。
「わせがくの子たちの気持ち、わかります」
試合に大差で負けることは、少なからず恥ずかしさを伴うはずだ。特に全国が注目する夏の選手権は、大敗がビッグニュースになることがある。その数字が大きければ大きいほど人はクリックボタンを押してしまう。今夏、0-82で敗れた千葉のわせがく高校もその一つだろう。
佐伯監督は言う。
「あの話は美談にしちゃいけないと思うんです。『最後までよく戦った』だけで済ませていい問題なのかなって。わせがくの子たちの気持ち、わかります。僕がベンチにいたら、出て行って一緒に守ってやりてえなって思いますもん。ストライクが取れない、打ち取った当たりをエラーする……4時間守って20分しか攻撃しない試合なんてザラですよ。だからうちは練習試合から強豪とやって対策しています。練習試合で60点失点、70点失点という試合経験を積む。今年の夏は0-10(対気仙沼)でしたけど、うちの選手にとっては失点を減らせたことが成功体験につながるんです」
練習試合で大敗しても羞恥心は「まったくない」と言う。
「指導者が恥ずかしいと思ったら、部活に入ってくれた生徒に失礼じゃないですか。子どもって最後まで諦めない。投げ出さないんですよ。必死でやってるのに、大人が羞恥心なんて言ってたらそのことの方が恥ずかしいです」
新チーム主将の大場龍之助(2年)もあっけらかんと話す。
「対戦校をネットで調べてみると、記事がいっぱい出てきて『強い学校だったんだな』と後で知ります。でもいくら部員が多くても、やるのは1対1じゃないですか。僕らはその勝負が楽しいんです。打ったり抑えたりが楽しいので、何点取られたかとかはあまり気にしていません」