甲子園の風BACK NUMBER
近江・山田陽翔は「心から応援したくなる子」対戦した監督もホレる“律儀な剛腕”の素顔とは?「プロに行っても可愛がられるでしょう」
posted2022/08/26 06:01
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph by
Hideki Sugiyama
本当は泣きたくなかったのだろうな……。
試合後、アルプススタンドへ挨拶して、ベンチ方向に振り向いた途端に涙をこぼす近江・山田陽翔(3年)を見てそう思った。
昨夏に聖地・甲子園デビュー。当時は今年ほど大きく取り上げられることは少なかったが、2年生ながら強い眼差しで、打者に立ち向かっていく。マウンドで闘志をみなぎらせるピッチングは、あの時から同じだった。
代替出場のセンバツで準優勝
山田の存在が大きくフィーチャーされるようになったのは今春のセンバツだろう。京都国際の辞退を受けて、開幕2日前に急きょセンバツ出場が決まった。
初戦の長崎日大戦では、0-2と劣勢で迎えた9回表に同点に追いつき、延長13回タイブレークの激戦を制した。いきなり165球の完投。準決勝の浦和学院戦では、5回に足に死球を受けながら痛みを押して完投。決勝では疲労から思うような球を投げられず、3回途中4失点で自ら申し出て降板。準優勝に終わったものの、その5試合を通して高校野球ファンの中に印象づけられたのが、試合での山田の一挙一動だ。
試合後の相手チームへの丁寧なお辞儀、インタビューでの言葉選び、話し方。勝ち上がっていくたびに、「こんなにきちんとコメントできる高校生はいない」「発言が大人すぎる」といった反応をSNSや周囲からよく聞いた。そんな人間性について母・淳子さんは「本当に、そんなことはないんですけどね……」と謙遜するが、取材を通しても山田の受け答えに多くの記者が好感をもっていた。
「今は(新型コロナウイルス感染拡大の影響で)行けないですけれど、星野(世那投手・3年)と一緒に練習のない日にラーメンを食べに行くのが楽しみ」だとか「〇〇にあるラーメン屋さんが好き」と美味しいものの話になると声が弾む。同級生と一緒にいれば、他愛のない話をしながらじゃれ合うこともある。そんな姿は普通の高校生そのものだ。
だが、そんな山田に“芯の強さ”を感じたシーンがある。今春の近畿大会・準決勝の時だ。