甲子園の風BACK NUMBER
近江・山田陽翔は「心から応援したくなる子」対戦した監督もホレる“律儀な剛腕”の素顔とは?「プロに行っても可愛がられるでしょう」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/26 06:01
準々決勝を終えた後、高松商・浅野翔吾(手前)と言葉をかわす近江・山田陽翔
大阪桐蔭との試合で先発するも試合途中で右太ももが攣り、6回で降板した。試合後のインタビューには、主将ということもあり山田が指名選手に選ばれたのだが、右足の状態を思うと、球場の2階にある取材スペースまで来られるのか、こちらも心配でしかたなかった。可能なら、こちらから1階のベンチ裏まで取材に出向くのに……しかし感染対策上、それはできない。
そんなモヤモヤした思いで待っていると、高野連がパイプ椅子を用意してくれた。その後、応急処置をして状態が回復したということで、山田がしっかりとした足取りで取材スペースに向かってきた。
「こちらに座って、お話を……」と報道陣が着席を勧める前に、山田は「いや、いいです」と椅子に座ることを拒否したのだ。「いや、応急処置をしたとは言っても無理したらダメだから座って」と再度こちらからお願いしても、「いや、本当に大丈夫です」。取材中、最後まで椅子に座らなかった山田は、受け答えをする中でも苦しい表情は一切見せなかった。むしろ笑顔すら見せながら真摯に対応してくれた。記者に対しても必ず敬意を払ってくれる選手だった。
対戦相手の監督も驚くコミュニケーション力
センバツの準々決勝で対戦した金光大阪の横井一裕監督は、以前こんな話をしてくれたことがある。
「センバツの準々決勝で近江に負けた後、取材が終わってトイレに行ったら近江の山田君とバッタリ会ったんです。今日の試合のことなど色々話をしたんですけれど、普通はいきなり対戦相手の監督に話しかけられたら、選手はビックリしますし、何を言っても“はい”とかしか言えないじゃないですか。それなのに、僕の質問にきちんと答えてくれて、僕が“ウチの打線で一番嫌なバッターは誰やった?”と聞いても、ちゃんと誰かを答えてくれたんですよ(答えは4番の岸本紘一捕手・3年)」
横井監督は続ける。
「しっかりと丁寧に答えてくれましたし、他の雑談にも応じてくれました。その後、ウチの選手が何人か入ってきて、色んな話をしました。敵チームながら、最後は“頑張れよ。応援してるからな!”って、思わず言ってしまいましたよ。大人から見ても心から応援したくなる子ですね」