甲子園の風BACK NUMBER
近江・山田陽翔は「心から応援したくなる子」対戦した監督もホレる“律儀な剛腕”の素顔とは?「プロに行っても可愛がられるでしょう」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/26 06:01
準々決勝を終えた後、高松商・浅野翔吾(手前)と言葉をかわす近江・山田陽翔
京都国際の小牧憲継監督は、近江の多賀章仁監督から提案を受けて、6月8日にナイターで両校の練習試合を行った。初めて言葉をかわした時のエピソードを教えてくれた。
「試合前に初めて1対1で話したんですけれど、普通に大人と話せますし、コミュニケーション能力が高い子やなと思いました。正直な話、センバツであれだけ活躍してチヤホヤされていたら、高校生ならちょっと調子に乗っていてもおかしくないでしょう。でも、試合が終わった後、別のところで山田君とウチの森下(瑠大投手・3年)の取材があって、ウチの下級生の子らがベンチのところで待っていたんですけれど、インタビューが終わったらわざわざこちらのベンチの方に走ってきて“今日はありがとうございました”って頭を下げに来てくれたんですよ。あんなことを出来る子はあまり見たことがないですね」
小牧監督は夏の甲子園の抽選会で山田と再会。近江の初戦の相手が鳴門(徳島)に決まると「鳴門は強いぞ~」と山田にハッパをかけた。そうすると山田は「勘弁してください」と笑顔で返し、雑談に応じたという。
「こちらが冗談を言っても冗談で返せますし、この場ではこれ以上言わない方がいいとか、ここではこういうことを言った方がいいっていうのを分かっているんじゃないですかね。大人の対応ができるというか……。山田君はプロに行っても周囲の大人に可愛がられるでしょうし、応援したいって心から思われる選手になるんじゃないでしょうか」(小牧監督)
甲子園から最も愛された選手
今大会の準決勝・下関国際戦では7回途中でマウンドを降り、ライトの守備についた。その時、近江の一塁側アルプススタンドだけでなく、外野席など広範囲から大きな拍手が鳴り響いた。
それ以降、再びマウンドに立つことはなかったが、今年、甲子園から最も愛された選手であったことは間違いない。下関国際の校歌が流れる中、ベンチ前では感情を抑えながら直立していたが、大きな声援を送り続けたアルプススタンドへ向かって、笑顔で「ありがとう」と言っていた姿は、見ている方もグッとくるものがあった。