甲子園の風BACK NUMBER
号泣の大阪桐蔭「それができなかったのが弱さ」「手拍子に呑まれそうに」トリプルプレー、下関国際の研究…“甲子園の魔物”に王者は襲われた
posted2022/08/19 11:02
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Hideki Sugiyama
1点を追う9回2アウト、ランナーなし。大阪桐蔭ベンチの中には、目に涙を浮かべる選手もいた。逆転の望みを託された6番・田井志門選手のスイングが空を切る。大差でリードしている時も、窮地に立たされた時も、感情をコントロールしてきた大阪桐蔭の選手たちでも、涙をこらえきれなかった。目標にしていた「秋春夏3連覇」への道が途絶えた瞬間だった。
目標まで、あと3勝に近づいた下関国際との準々決勝。スコアボード上の旗はレフトからライトへの風に揺れていた。普段の浜風とは逆向きの風が吹く。
大阪桐蔭は初回、3番・松尾汐恩捕手と、4番・丸山一喜選手の連続タイムリーで2点を先制する。だが、なかなか下関国際を引き離せない。2度同点に追いつかれ、ついに9回、試合をひっくり返された。
下関国際は入念に対策を練っていた
相手は入念に対策を練っていた。
大阪大会でわずか1失点と鉄壁の投手陣に対し、フルスイングせず食らいつく。バットを拳2つ分短く持つ打者、ノーステップで打つ打者。ともに、140キロを超える直球を投じる大阪桐蔭の別所孝亮投手と前田悠伍投手は、我慢を強いられた。2人で許した安打は13本。そのうち、打球が三塁ベースに当たる不運なものを含めても、長打はツーベース3本だった。
2人の投手をリードした松尾捕手は「相手打線への攻め方は頭の中にありましたが、思っていた以上にしぶとい、粘り強いチームだと感じました」と回想した。
9回ノーアウト一塁から前田投手が許したヒットは、相手打者がバットを途中で止めるような軽打だった。5回途中からマウンドに上がり、3点を失った投球を振り返る。
「際どいボールを見極められて、粘って粘って打ってくるやっかいな打線でした」
打線も本来のスイングができなかった。相手バッテリーに研究されていた。下関国際の先発は左腕・古賀康誠投手。大阪桐蔭の右打者は内角の直球と外角のスライダー、チェンジアップと幅を使った組み立てに揺さぶられる。左打者は内角の直球を見せ球に、最も遠い外角のスライダーを多投された。さらに、90キロ台のカーブを織り交ぜられ、左右どちらの打者も強引に引っ張る場面が目立った。
実は3回戦から歯車が狂う兆候はあった?
歯車が狂う兆候は――実は下関国際戦を迎える前にあった。