炎の一筆入魂BACK NUMBER
「全部、真っすぐに見えて欲しい」昨季0勝のカープ野村祐輔が130キロ台のストレートで復活できた理由
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2022/07/18 11:00
6月10日の西武戦で2シーズンぶりの勝利を上げ、笑顔の野村。12年の新人王投手も33歳となった
「プロ2、3年目の20代の頃とは全然違う。今後のことを考えてやっている。球速も追い求めたいけど、それより(直球の)質を良くしたい。同じフォーム、同じ軌道で投げるのがベース。フォームが安定しないと、同じ軌道を通らない」
投球において「直球をいかに速く見せるか」「低めを徹底する」という言葉をよく耳にするが、野村が高速化時代に生き残る術としたのは、まったく別の発想だった。
「全部、真っすぐに見えて欲しい」
緩い球を使って直球を速く見せるのではなく、直球と変化球の球速、軌道をいかに近づけられるか。
カーブやチェンジアップを使って緩急もつける。ただ、140キロ前後の直球との緩急では、各球団の中軸を抑えることは難しい。野村の場合、直球をいくら速く見せようとしても限界がある。1つ1つの球種で勝負するのではなく、スイングを誘いながら打ち取っていかなければ戦えない。厳しい現実を肌で感じたからこそ見いだしたのが、「全部、真っすぐに見える」スタイルだった。
復活の鍵を握るピッチトンネルの精度と強度
打者が球種の判別ができるのは打者から9mほどの距離と言われる。真っすぐと同じ軌道とスピードから打者の手元でボールを動かせればバットの芯を外せる。「ピッチトンネル」と呼ばれる投球理論で精度向上を求めてきた。
ケガなどもあり思うように進まなかったものの、19年からの積み重ねはようやく実を結びつつある。
松橋隆普実一軍ブルペン捕手も野村の変化を口にする。昨年まで二軍ブルペン捕手を務め、野村の球を近年もっとも受けてきただけに、球速に表れない強さを感じているのだ。
「今年はリリースのときにぼやけていないので、最後まできっちりゾーンに来る。ミットに収まる瞬間が一番強いイメージ」
ピッチトンネルの精度を上げるため、変化球よりも制球力よりも、何より直球の球質向上を重要視してきた。