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「全部、真っすぐに見えて欲しい」昨季0勝のカープ野村祐輔が130キロ台のストレートで復活できた理由
posted2022/07/18 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
KYODO
100マイル(160キロ)を投じる投手が増えてきた米大リーグの流れとともに、日本球界の高速化も進んでいる。投手と打者との距離18.44mは変わらなくても、到達時間は短くなっている。高速化に対応する打者のスイングスピードや技術も進化して力と力の勝負が色濃くなり、剛球を持たぬ技巧派にとっては生き残りづらい時代となった。
左腕や下手投げのような特徴に欠ける右上手投げは、特に生き抜くことが難しいと言わざるを得ない。広島の野村祐輔も、そんな時代にあらがう投手のひとりといえる。
6月10日の今季初登板では西武を相手に3失点で勝利投手に。2度目の登板となった7月10日中日戦では、投じた81球中、スピードガンが140キロ台を計測した球は1球しかなかった。それでも、2日前に大瀬良大地から3回までに7得点を奪った中日打線を詰まらせ、打ち取り、6回2失点(自責1)に抑えた。
今季の登板はその2試合のみだが(7月15日時点)、限られた登板機会で昨季0勝の野村の復調ぶりが見えた。
明大からドラフト1位で広島に入団した2012年に、9勝を挙げて新人王を獲得した。16年は最多勝と最高勝率のタイトルを獲得するなど、25年ぶりのセ・リーグ優勝に大きく貢献。18年は自身初の開幕投手を務めるなど、広島の主戦投手として活躍した。
技巧派右腕、10年目の蹉跌
しかし、高速化の波にのまれるかのように、18年から20年まで3年で19勝。登板数も徐々に減り、昨年はついにプロ入り初の白星なしに終わった。
「スピード任せで抑えられる投手ではないし、今からそこを目指すこともできない。ただ、こう見えても(球速アップも)追っていますよ。150キロは出せなくても、自分の持っているものを出して行けたら、バッターを抑える可能性が高くなるんじゃないかなと」
広島の主戦を務めていた入団当初は、直球も140キロ台中盤を記録していた。直球を主体に、カーブとチェンジアップという緩い変化球を左右に散らし、ストライクゾーンを立体的に使った組み立てができていた。
だが、年々球速が落ちていく中で、新たな投球スタイルの確立が求められた。30歳となり、シーズンの投球回が初めて100を下回った19年が、ひとつの転機だったかもしれない。野村自身も当時から変化の必要性を感じていた。