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甲子園の風BACK NUMBER
「あれが大阪桐蔭の強さなんですよね」“最大の宿敵”履正社の新監督が唸った松尾汐恩(3年)の1本とは?〈夏は11連敗中〉
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph bySankei Shimbun
posted2022/07/15 17:02
履正社・多田監督が唸った大阪桐蔭・松尾汐恩(3年)の存在感。春季大会決勝では惜しくも敗れたが、夏のリベンジを誓った
これまで岡田監督は常にアップデートを意識した“改革”を積極的に行ってきた。
19年夏に全国制覇を達成した後も、「打つだけでは勝ち続けられない」と陸上競技の講師をグラウンドに招き、速く走るためのフォームなどを指導してもらったことがあった。進化を止めてはいけない——それが岡田監督のモットーでもあった。
多田監督は走塁に特化したトレーニングを始めた真の理由をこう明かす。
「甲子園で優勝した時、実は6試合で盗塁がゼロだったんです。それがどうも頭の中には残っていたんですよ。打つ方は打てる時、打てない時がありますが、打てない試合でも走れれば流れを変えることもできます。(20年秋季大会3位決定戦で)山田高校に負けた時、ウチが1死からランナーを出しても、ピッチャーがランナーを気にせずに投げていたんです。(昨秋の)京都国際戦もエースの森下(瑠大)君が同じような感じで投げていたので、これは警戒されていないなと。今思うと、もっと何とかできたのではと思いました」
今までにない特徴を作り上げる——“多田野球”のスタートは、そこから始まった。
果敢に次の塁を狙う履正社の姿勢はすぐにスポーツ紙で取り上げられるなど、大会を通して特徴が際立っていた。
そんな機動力を武器に勝ち進んだ新生・履正社と、公式戦26連勝中だった大阪桐蔭の決勝戦。好勝負必死の予感漂う一戦をひと目見ようと、平日の昼間にもかかわらず、スタンドは多くの観客で埋め尽くしていた。
大阪桐蔭・松尾も警戒した履正社の走塁
新生・履正社の機動力は、早速ライバルを刺激する。
大阪桐蔭の正捕手・松尾汐恩は「履正社のランナーは、ワンバウンドのボールの時はほとんど走ってきていた」と、後に語っていた。捕手出身の多田監督としても、超高校級の捕手がそこまで警戒を強めてくれるのは願ったり叶ったりだ。
「捕手は打者のことだけを考えられたらいいのですが、走るチームが相手となるとランナーのことを考えないといけない。相手が嫌がることをやってくるとなると、けん制のサインも増えますし、盗塁が成功する失敗するということではなく、バッテリーにプレッシャーをかけることができる。エンドランを仕掛けてくるかもしれない、走ってくるかもしれないと思わせられる。走らなかったとしても、相手はそう思うことで多方面に気を配らないといけなくなりますよね」
だが、多田監督曰く、大阪桐蔭戦が思惑通りに進んだのは「3回表」までだった。