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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「4番らしく、真剣に振らんかい!」毎朝6時1000本スイング、スカウトが見逃した“ドラ1狙う”徳島の左投手…“甲子園予選”で見たいドラフト候補
posted2022/07/14 17:02
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
KYODO
高校野球、夏の地方大会を迎え、全国で目撃してきた“ドラフト候補”たちをレポートする(全2回の1回目/#2へ)
【1】呉港高・田中多聞外野手(3年)「高校通算48本塁打」
高校通算48本塁打、西日本有数の左打ちのスラッガー。
呉港高・田中多聞外野手(3年・183cm85kg・左投左打)は、そんなふれ込みで、この春、ネット情報に上がってきた。
7月3日、夏の甲子園予選前、最後の練習試合。岡山学芸館高との一戦に臨んだ。
最初の打席、岡山学芸館の先発左腕のショートバウンドのチェンジアップに突っ込んで、空振りの三振に終わっていた田中。
次の打席を前にウェーティングサークルに出てきた時、ちょうどすぐ近くにいて、目が合った。
困ってるような目をしたから、
「打ちにいっちゃダメ。詰まるぐらいで、ちょうどいいんだよ」
思わず「お節介アドバイス」をしたら、そのまんまのどん詰まりに見えたハーフライナーが、なかなか落ちてこないで、レフトの頭上を越えてツーベースになった。
さらに、その次の打席、やはりちょっと詰まったように見えた打球が、今度は高いアーチを描きながら、レフトフェンスを越えていったから、もっと驚いた。速球にやや差し込まれながらも、背中を叩かんばかりに振り抜いた柔軟なフルスイングとそのスピードがハンパじゃなかった。
毎朝6時から1000本スイング「4番らしく、真剣に振らんかい!」
田中多聞外野手の呉港高には、その10日ほど前、取材でグラウンドに伺っていた。
会ってみて、その面構えが気に入った。平成を飛び越えて「昭和の根性男」の雰囲気だ。頑固で融通が利かなくて、不器用だけど、こうだ!と思い込んだ時の突進力といちずな思いは人一倍。こういう選手がその気になったら、人の10倍働く。
「多聞っていう名前は、父がつけてくれました。昔の神さまで“多聞天”っていう闘いの神さまがいて、そこから名付けてくれたそうです」
大阪で会社を経営する父親が好きな武将は楠木正成。負けん気の強い子に育てられた……という。