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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「4番らしく、真剣に振らんかい!」毎朝6時1000本スイング、スカウトが見逃した“ドラ1狙う”徳島の左投手…“甲子園予選”で見たいドラフト候補
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2022/07/14 17:02
プロ注目、阿南光高の左腕のエース・森山暁生(3年・182cm85kg・左投左打)。昨夏、甲子園のマウンドにも上った
「去年の秋までは、ただ漠然と野球やってるだけのダメなヤツだったんです。だけど、秋の県大会で初戦負けして、目が覚めました」
野球より勉強のほうで県下に名を知られた相手に、完璧に抑えられた呉港高。その日から、田中の「男の修行」が始まった。
「朝山先生(克彦、野球部長)が付き添ってくれて、毎朝6時から朝練で1000本スイング……トレーニング用の長いバットで。はい、春になってからの打球の飛び方がぜんぜん違って、振ったぶんだけ、ホームランが増えました」
4番やったら4番らしく、真剣に振らんかい!
こっちだって、必死にやっとるんじゃあ!
激しい言葉の応酬もあったという。手のひらの豆が、すっかり「たこ」になっている。
「一緒に朝の素振りするのが、なんとなく1人増え、2人増えして、今は全員で振ってます」
春からこっち、その強打ばかりが報じられてきた田中だが、ほんとのところ、絶対の自信を持っているのは、外野守備のほうだという。
「センターとしての打球反応、1歩目の速さ、守備範囲の広さ。左中間、右中間を抜けそうな打球をギリギリでキャッチすれば、試合の流れが一気にこっちに来るし、チームとしてもすごい盛り上がるじゃないですか」
伝わってくる「熱」と「圧」は、間違いなく自信の証しだ。
練習試合を見ていて、感心した。センターを守りながら、レフト、ライトが打球を処理した瞬間、必ずその背後に、この快足センターの姿があった。
「50m6秒0」が自己申告だったが、手抜きのないバックアップの心がけが、そのスピードをフルに生かしている。
「打ち方は荒っぽいけど、馬力というか、突進力がすごい。プロでもイケメン系が増えてきた中で、彼みたいな、無骨でもいちずな野球ができるヤツは魅力を感じる」
遠くに移動するため、この日の第1試合でグラウンドを後にした、あるスカウトの田中多聞評だ。
【2】阿南光高・森山暁生投手(3年)「ドラ1もありえる」
第1試合でいなくなったそのスカウトはもったいないことに「145キロ前後」を見逃していた……そのグラウンドにやって来たのが、阿南光高の選手たちを乗せた大型バスだ。
第2試合の先発で上がったマウンド、豪快に投げ下ろしてボディバランスに崩れのない投球が光る。1年時からマウンドを守ってきた阿南光高の左腕のエース・森山暁生(3年・182cm85kg・左投左打)は昨夏、甲子園のマウンドにも上った。
スライダー、チェンジアップを交えながら、アベレージでも145キロ前後は出ていたはずだ。
今春県大会での1試合20奪三振完投で、さらに注目。アベレージ140キロ前半の速球と100キロ台のカーブを基調に、スライダーと「魔球」とも評されるツーシームで放射状の球筋を作る。
今夏、高いレベルでもうワンプッシュ、ツープッシュあれば、この秋には「ドラ1」もありそうな、それほどの存在だ。
柳裕也(中日)のカーブを思い出した
試合前の遠投。大きく距離を開いておいて、高々と放物線でやっと届く……この全国有数の左腕は、そんな「遠投」などしない。
しっかりと指をかけた低いライナー軌道で投じられたボールが、ぐんぐん伸びて80mほど先の捕手の頭上を通り抜けた。
苦みの走った表情……「高校球児」というよりも、ブルペンのマウンドのそこだけ、大人の雰囲気が漂う。