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「モリタが来てサンタクララは変わった」「日本人でいなきゃいけない時と…」大西洋の離島で守田英正が愛され、評価を上げたワケ〈現地取材〉
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byDaisuke Nakashima
posted2022/07/05 17:02
サンタクララ時代の守田英正
「モリタは今日は途中からだね、怪我してたみたいだから。でもタガワは先発だ。彼も、若いけどいい選手だ」
サンタ・クララには今冬移籍してきた田川亨介もいる。対戦相手のエストリルには食野亮太郎も。大西洋の彼方で日本人3人がリーグ戦を戦う、2022年とはそんな時代なのだ。
後半半ば、守田が監督に呼ばれた。スタンドから拍手が湧く。背中の選手名はHIDE。守田は4-4-2の右ボランチに構え、あたりの敵を潰しながら、機を見ては相手エリアへ飛び込んだ。チームの心臓部にどんと構える姿に頼もしさを感じた。
「守田が来てからチームは変わったんだ」
「守田が来てからチームは変わったんだ」
試合を取材していたヌーノ・ネべスは言った。1835年発刊の島の地元紙『アソリアーノ・オリエンタル』の記者だ。
「昨シーズンからきて、いきなりチームのベストプレーヤーになった。中盤で何でもできる選手だ。アンカーにインサイドハーフ。足元の技術が高くて、気の利いたパスも出す。なにより彼が中盤に入ってから、他の選手も積極的にプレーするようになった。それが一番の変化だ」
サンタ・クララは勝った。1部残留に近づく勝利だ。決して多いとは言えないサポーター(スタンドの半分以上は空席だった)も、それなりに勝利を祝った。丘のむこうでは、試合前と変わらずに牛たちが遠くの海を眺めていた。
試合後、守田と言葉をかわす。「すごいでしょう、このスタジアム」。彼はそう言って微笑んだ。「ホーム」と「アウェー」しか表示されないスコアボード。ロッカールームの設備も最低限だ。選手出口には柵もなく、駐車場の前でファンが出待ちをしていた。選手とファンがほとんど接触できない欧州のビッグクラブとはまるで違う。そんな環境を、守田はどこか楽しんでいるようにも見えた。後日、市内で会う約束をした。
モリタはきっとスポルティングに移籍するから、君たちともう会うことはないね。ヌーノはそう言って、なぜか筆者とカメラマンの写真を撮り帰っていった。翌日の紙面には、「日本人3人を取材する日本人」という小さな記事が載せられていた。
性格的にそうでなくても、外国人として振る舞う
その日は小雨がちらつき、町の石畳を濡らしていた。市街地のホテルに、守田は時間通りにやってきた。
辺境に生きることについて聞いた。
「うーん、きついですよね、やっぱり」
彼は数日間だけの来訪者ではない。不便に目が行くのは当然だろう。
「いまはここでひとり。時間があるのって、いいことだけじゃないんだなと。毎朝練習をして、筋トレして、その後はフリーなのでポルトガル語の授業を受けたり。ただ、ここは島なのでよりサッカーに集中できる。時間はたっぷりあるので、これからはスプリントと心肺機能を上げるトレーニングをやろうと思っています」
離島の最大の障壁は移動だろう。