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「モリタが来てサンタクララは変わった」「日本人でいなきゃいけない時と…」大西洋の離島で守田英正が愛され、評価を上げたワケ〈現地取材〉
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byDaisuke Nakashima
posted2022/07/05 17:02
サンタクララ時代の守田英正
「日本人でいなきゃいけない時と、外国人として振る舞う時があって、性格的にそうじゃなくてもやるべき時がある。その方が受け入れてもらえる。何もせずに受け入れてもらえるのは、本当に実力がある選手だけなんです。悔しいけど、現状では日本人はブラジル人より下に見られる部分もある。もし僕がドリブラーで自分で仕掛けていく選手なら、ある程度孤立しても関係ない。でも、僕のポジションは自分の特長を周りにも生かしてもらわないといけないので、関係性は日頃から築かないと」
守田はチームの懐に器用に飛び込んだ。昨季、加入早々の彼にスタッフが告げた。
「温泉、あるぞ」
オフも家でゆっくりするタイプの守田だが、わざわざ車を走らせ山間にある温泉街フルナスに向かった。テッラ・ノストラ温泉の湯は黄銅色で、日本とは違いややぬるい。独特な泉質は好みではなかったが、貴重な体験だった。
「サッカー人生を終えたときに何が残っているかがその人の価値だと思っています。あの選手すごかったね、と言われるよりも、サッカーを通じて、人として何をやってきたかを自分は大事にしている。いろんな人種や文化に触れたいし、多くの挑戦や経験をして、いつか自分の子供にそれを伝えられるような人になりたいですね」
スポルティング移籍の噂で島はもちきりだった
島にいた数日間、ポルトガルのメディアは守田のスポルティング移籍の噂でもちきりとなっていた。
朝、売店でスポーツ新聞を買えば(本土で買うより50セントも高かった)一面には彼の顔があった。今季が終わり、目指すステップアップを果たすことができれば、その数カ月後にはもうひとつの夢、ワールドカップが待っている。
「ワールドカップという舞台は新しい自分を知ることのできる機会になると思います。僕は全くプレッシャーを感じないタイプなんですが、あの舞台ではそれを感じられるかもしれない。それに僕はこれまで一度も強豪国と試合をしてない。大人数の観客の中でやったこともない。だからスペインとドイツと戦えるのは個人的には嬉しい。ベスト8が目標と言われるけど、自分の考えとしては優勝を目指す中で結果的にベスト8なら喜ばしい、そう思いたいですね」
スペインとドイツ。両国ともボール保持に関しては世界トップの国だ。この2試合、相手にボールを支配されるという前提でいいか。そう聞くと、守田はしばらく黙り込んだ。長い沈黙だった。
「難しいですね……。うーん。難しい」
守田の頭の中には数日前に目にしたチャンピオンズリーグ準々決勝の残像があった。
「自分たちがどれだけ引いて固めていようが、最終的には上手いチームには負けるようになっているんです。リアクションとアクションの差が、そこにある。アトレティコ・マドリーは引いて守備に徹したけど、最後はマンチェスター・シティのクオリティにやられた。だから僕はスペインにもドイツにも、ボールを握りにいく姿勢は持ちたい。どれだけやれるのかを確かめたいですし。でも、5枚のブロックでカウンター狙うのもひとつのやり方。そのとき、一番勝つ確率が高い選択をしたい」
世界最高の舞台で自分の力を見せる。この1年半で、淡い自信は確信となった。
「ここに来て正しかったという手応えはあるし、自分がその選択を正しい方向に持っていったという自負もあります。代表でも、連携面は最初の頃よりは遥かによくなった。中盤は3枚でいくかどうかは分かりませんが、アンカーも好きだし、インサイドもできるし、2ボランチは元々やっていたところ。どのポジションでも、僕は戦える」
そう言い切る姿は自信に満ちていた。
礼を言い、島を発つ便に乗った。なぜだろう、復路はいつだって短く感じる。
経由地リスボンの喧騒が懐しかった。定価で買ったスポーツ紙には、写真付きの守田の記事があった。紙面の上を走る日本人が、どこか遠い世界のことに思えた。
<#1につづく>