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「モリタが来てサンタクララは変わった」「日本人でいなきゃいけない時と…」大西洋の離島で守田英正が愛され、評価を上げたワケ〈現地取材〉
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byDaisuke Nakashima
posted2022/07/05 17:02
サンタクララ時代の守田英正
彼は現欧州組の中でも最も過酷といえる環境に生きている。ほぼ2週間毎に島から本土へ飛び、試合をしては帰ってくる。それが1シーズン続く。
日本代表合流に「筋肉痛を残したまま出発する」ワケ
日本代表に合流する際はさらに厳しさが増す。3月のオーストラリア戦ではリスボン、ドバイと乗り継ぎ、約30時間かけて移動。大一番でフル出場し、ワールドカップの切符を手にした。移動に関しては、彼なりのコツもつかんだ。
「筋肉痛を残したまま出発することです。移動中は丸一日何もできないし、到着後も夜であれば何もできない。特に代表戦前のリーグ戦ではかなり負荷をかけて試合に挑む流れを作っています。オーストラリア戦のときも、そこはしっくりきてました」
異文化での生活については日本にいた頃からイメージはあった。しかし実際に海外に来て、その過酷さを身にしみて感じた。
「日本でプレーするのと海外では意識や姿勢が天と地くらい違う。環境がそうさせるのかなと。たとえ怪我があったり、キャリアが思うように進まなかったとしても、日本に戻ったときに海外移籍を後悔する選手はいないと思う。移動も含めてこっちに来ないと分からない。自分はそれを求めてここに来たんです」
サンミゲル島に日本料理店はない。レストランの選択肢も限られ、あるのは基本的には地元料理だ。かくして日本代表の万能MFは日々スーパーへ赴き、食材を購入しては自宅で調理する能力まで身につけた。
「やっぱり海の町なので、海鮮がおいしいですね。僕は肉が大好きなので肉ばかり食べてましたが、ここでは魚や貝を多く摂ってます。栄養的にもいいですし。調味料は持ってきているので、日本の料理にも近づけることはできます」
守田が勧めてくれた島の逸品がある。『Arroz de marisco(アロシュ デ マリシュコ)』。魚介のスープリゾットだ。
ポンタ・デルガダから海沿いを東に走った魚介の名店「Cais 20」で食した。本土にもあるポルトガルの名物料理だが、島のそれは格別だ。橙色のスープには大洋の滋養が詰まっていて、ちりばめられたコリアンダーの香りが匙の上を舞う。鍋底が見え始めたら、この海域で獲れる高級魚チェルネを焼いてもらう時間だ。欧州大陸にはほとんど回ってこない、脂の乗った風味豊かなこの魚も島では日常の食材である。
店は満員となり、各テーブルではピコ島産の白ワインがあいていく。テレビ画面ではポルトの試合が流されている。そう遠くない未来、違う色のユニフォームを着てプレーする守田の姿を、島民は画面越しに目にすることになるだろう。
人として「変えた」部分もあった
極東の島国から大西洋の島へ。地球の反対側にやってきて、人として変わった部分もあった。変えた、というべきだろうか。
例えばサンタ・クララのロッカールームで、移動中のチームバスで、陽気な音楽が鳴る。守田は踊る。