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「モリタが来てサンタクララは変わった」「日本人でいなきゃいけない時と…」大西洋の離島で守田英正が愛され、評価を上げたワケ〈現地取材〉
posted2022/07/05 17:02
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Daisuke Nakashima
ポルトガル語なまりの機長のアナウンスが流れ、小窓から外を眺めた。
薄い雲の隙間を飛行機は飛んでいく。蒼い海と大地が見えた。島の上部は濃い緑で覆われていて、ところどころに集落が白い点となって続いている。
島の上に虹がかかっていた。奥地では雨が降りはじめる頃だろう。
アソーレス諸島は大西洋の真ん中に浮かんでいる。捕鯨やマグロ漁で栄えた島々はポルトガルの一部ではあるものの、本土からは1500km離れている。首都リスボンから飛行機で2時間半。大洋に隔てられ、欧州世界から断絶された島々には、いまも独特の風土が残っている。
守田英正は同諸島最大のサンミゲル島で日々を過ごしている。
島は復活祭を前に賑わいをみせていた。欧米からの観光客もいる。コロナの時代に溜め込んだ、人間の旅する欲求があたりに満ちていた。
アソーレス諸島の人口は24万人、その半分以上がこの島に住んでいる。最大の町ポンタ・デルガダは白黒の石畳が続いていて、ゆったりとした時間が流れている。道ゆく人々も素朴で、着飾った人はいない。
その午後には島のチーム、サンタ・クララの試合が控えていた。市街地から北東へ、10分ほど車で進んだところに、エスタディオ・デ・サンミゲルはある。
牧歌的なスタジアムには地方の運動公園の趣が漂う。道路からは試合が丸見えで、すぐそこで牛の群れが牧草を食んでいる。
もくもくとした湯気とともに、旨そうな匂いが漂ってきた。売店の前でサポーターが試合前の腹ごしらえをしている。
「豚サンド」と老サポーターは言った。
「旨いぞ。じっくり煮込んである」
日本人は珍しいのだろう、誰もが好奇の目を寄せてくる。日本人サッカー選手という存在がもはや珍しくなくなった欧州では感じられない、懐かしい視線だ。
二人組の若者が教えてくれた。