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テニスPRESSBACK NUMBER
伊達公子と杉山愛が明かす“日本テニス界”への危機感「今の子は保証のない夢を追わない」「若さの勢いを使うべき時期って、絶対にある」
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/07/02 17:01
日本女子テニス界を象徴するレジェンド、伊達公子氏と杉山愛氏の特別対談が実現した
それら重ねたミーティングの中から生まれた、具体的な目的の一つに、“賞金15,000ドル国際大会の国内設立”がある。15,000ドルの大会は、WTAランキングポイントが獲得可能な大会群の中で、最もグレードが低い大会。いわばプロになるためのスタートラインだ。
ところが今現在、日本国内には、この大会群が存在しない。その現状がリアルな懸案事項として立ち上がったのは、ジュニア指導にあたっている神尾や中村がこぼした、「愚痴」だったという。
「本当に、米さんと藍子ちゃんが実際に今現場でぶち当たっている悩み」と杉山が表する「悩み」の内訳とは、簡単に説明すると次のようなものだ。
なぜ“最もグレードが低い大会”を国内で作る必要があるのか?
テニスの世界には、国際テニス連盟(ITF)主催の18歳以下によるジュニア大会群が存在する。ジュニア選手たちはプロ同様、世界各地で開催される大会に出場しては、戦績に応じて獲得できるポイントを貯めてランキングを上げていく。このジュニアランキング最大のインセンティブは、上位選手は、15,000ドル大会が設ける“ジュニア枠”の出場権を得られること。つまり15,000ドル大会は、ジュニアからプロへの橋渡し(=パスウェイ)なのだ。
ところがこのパスウェイが、現在国内には存在しない。そしてその事実こそが、「ジュニアからプロへの移行で躓く」という、日本テニス界が抱える問題の一つの要因ではないかとの仮説を、伊達たちは立てた。
自らもジュニア指導にあたっている伊達が、現場での実感を込めて言う。
「今ジュニアを見ていて感じるのは、ジュニアは大きなスポンサーやサポートも得られる訳ではないなかで、必ずしも皆が海外に武者修行にいけるわけではないということ。だったら私たちが、国内に15,000ドルの大会をしっかり作っていこうとなったんです」
プロを目指す若手のため、世界への順路を整えてあげようという情熱。とはいえ、ジュニアたちを甘やかす訳では決してない。
伊達がジュニアに望むのは、この移行期を「スパーンと抜けていく、(杉山)愛ちゃんのようなメンタリティ」だ。「杉山のメンタリティ」とは、グランドスラムの煌びやかさからは想像もつかないほどに過酷な環境での下部大会を、「絶対に1年で卒業する!」と決意し実践する力。換言すれば、このメンタリティとスピード感なくして、100位圏内に定着することは難しい。
「だから我々が作るのは、心地よい大会ではないですよ」
そう言い伊達と杉山は、含みのある笑みを広げた。
「今の子たちは保証がない夢を追いかけない」
JWT50初期メンバーに名を連ねた8名の足跡がバラバラであるように、ジュニアから一般への「パスウェイ」も無数にある。ただ、先達の8名に共通して言えるのが、新たな世界に飛び込み挑戦することを躊躇せず、覚悟を決め、保証なき夢に邁進したことだ。
脇目もふれず突き進むうちに、かつて彼方に見た夢は、やがて叶えるべき目標となる。その目標に、もがき、もがいて到達した時には既に、先にさらなる夢が見え、夢はまた現実の匂いを帯びた目標となる。
そうやって地平の先へ先へと進んできたからこそ、伊達は後進たちに、次のようなメッセージを届けたいと願うのだ。