酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
佐々木朗希が「剛」なら山本由伸は「柔」 日本のエースたる“圧倒的クオリティ”を示す超安定した記録の数々〈今季4人目ノーノー〉
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/06/21 11:01
佐々木朗希と山本由伸。2022年にノーヒッターとなった2人の投げ合いを熱望する野球ファンは多いはずだ
佐々木は最速164キロの速球と150キロのフォークを駆使しイニング数をはるかに超す三振を奪う。奪三振率は12.77、その上、制球力が抜群で今季のK/BB(奪三振数/与四球数)は11.67に達する。圧倒的なパワーピッチャーだが、走者を背負いクイックモーションになると特に変化球の精度が落ちる傾向にある。
もし山本由伸に“1つだけ”懸念があるとしたら
これに対して山本は最速157キロの速球に加え150キロフラットのフォーク、カットボール、140キロ超のスライダーでもストライクを取れる。打者には球種を見分けることが極めて難しい。今季ここまでの奪三振率は8.86、K/BBは4.10。佐々木より多くの走者を出しているとはいえ、山本は走者を背負っても投球精度は落ちない。
「剛」の佐々木と「柔」の山本。我々は球史に残る偉大な投手を2人も目の前で見る幸運に恵まれている。両指揮官が意識して避けているのか、両者の投げ合いはまだないが、実現すればまさしく世紀の対戦になるだろう。
山本に関する懸念は、昨年ポストシーズン、オリンピックも含めて3500球超を投げていること。今季、佐々木は100球以上投げた試合は2試合だけ、球数は105球が最多。一方の山本は12登板すべてで100球以上を投げ、最多は124球。槍投げの投法に範をとった肩肘に負担が少ないフォームで投げているとはされるが、今季は登録抹消が1回あり、登板過多が懸念されるところだ。
年4回のノーノーは史上2位タイとなった
今季のノーヒットノーランはこれで4回。
佐々木朗希(ロ)4月10日(オ)戦9回0安0球19振 残0
東浜巨(SB)5月11日(西)戦9回0安2球6振 残0
今永昇太(De)6月7日(日)戦9回0安1球9振 残1
山本由伸(オ)6月18日(西)戦9回0安1球9振 残1
佐々木は完全試合、今永と山本は走者を1人出しただけの準完全、東浜は残塁なし。投球内容も極めてハイレベルだ。
シーズン4回のノーヒットノーランは1940年の5回に次いで史上2位タイ。すべてパ・リーグのチームを相手に達成されている。
年4回は今年の他に1943年にもあった。しかし1940年は太平洋戦争の前年で物資が窮乏し、中古のボールを繕って使用する状態で、リーグ打率は.206だった。1943年は戦争の最中で召集される選手も多くさらに環境は悪化、リーグ打率は.196まで下がっている。極端な「投高打低」の環境で多くのノーヒットノーランが生み出されたのだ。