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史上85人目のノーノーも「十字架にならないと思えたのでよかったなって」…DeNA今永昇太が明かす、達成直後に“無表情”だった理由 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph byJIJI PRESS

posted2022/06/20 11:02

史上85人目のノーノーも「十字架にならないと思えたのでよかったなって」…DeNA今永昇太が明かす、達成直後に“無表情”だった理由<Number Web> photograph by JIJI PRESS

6月7日の日本ハム戦。1四球、9奪三振、117球の危なげないピッチングで、プロ野球史上85人目となるノーヒットノーランを達成した横浜DeNAベイスターズの今永昇太

アベレージ147キロ超のストレート、今季は何が違う?

 さて、今季の今永に関し特筆すべきは、そのストレートの質だろう。今永は先ほど「そこそこいい」と言っていたが、それどころではない。アベレージは147キロを超え、また回転数も本人いわく2400~2500と球界トップクラスの数字を残している。打者の反応を見るかぎり明らかに質の変化が見て取れるのだが、今永に訊くと春季キャンプ前の自主トレーニングで、これまでにない“新しい感覚”を手に入れたという。

「ここ2~3年の自主トレは、体を鍛え上げるというよりも自分の体をいかに動かすかに注力してきました。自分の体がロボットだとしたら、操縦士の能力を高めるように。例えば下半身を意識したかったら、まず上半身、リリースを意識したかったら、グローブの手というように常に逆の動作、次なる動作を意識してきたことが少しずつ今に連動しているような気がします。試行錯誤の上、今年の自主トレでは、リリースにもってくるまでの“無重力の瞬間”を掴むことができたんです」

 無重力の瞬間とは、果たしてなにか?

「テイクバックからボールを持ちあげていくとき、肩の動きもあまり感じることなく、ただボールの重さだけを感じる無重力の瞬間があるんです。日常生活でいうと、けん玉だったり、また釣りだったらキャスティングのタイミングとでもいうのか、一瞬、力が抜けるじゃないですか。あの感覚に近いんですね。いつも力が入っていたところが力まずに済み、最後にただ力を入れるだけ」

 キャンプで齋藤隆コーチにこのことを話すと、好調時に同じような感覚があったことを知らされた。新しい感覚により今までにない出力を感じた今永は、これを完全に自分のものにしようとしたが、そこには落とし穴があった。

「キャンプからバンバン速度を出せるタイプではないのですが、今年はすごくいいボールが投げられていました。しかし、まだそこについてこられる筋力の状態ではなかった」

 例年とは違う出力が負担となり、今永は左前腕の肉離れを起こしてしまった。

「キャンプのときもう少し球数を管理し、自分で早めにブレーキを踏まなければいけませんでした。2年ぶりの一軍キャンプスタートだったので、ちょっと走り過ぎてしまいましたね……。ただパフォーマンス的には“新しい感覚”の方がいいと思ったので、その後は故障個所プラス連動する部位をしっかりと鍛え、再発を防止するように調整をしてきました」

投手としての絶対的な“核”を手に入れようとしている

 結果、これが後の偉業に繋がっていくわけだが、ストレートの質の向上は、変化球にも波及効果があった。

【次ページ】 「本当の自分の力が問われるのは、これから先」

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