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史上85人目のノーノーも「十字架にならないと思えたのでよかったなって」…DeNA今永昇太が明かす、達成直後に“無表情”だった理由
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2022/06/20 11:02
6月7日の日本ハム戦。1四球、9奪三振、117球の危なげないピッチングで、プロ野球史上85人目となるノーヒットノーランを達成した横浜DeNAベイスターズの今永昇太
9回裏2アウトで最後の打者…相棒・嶺井博希からのサイン
今シーズンは左前腕部の肉離れにより出遅れ、チームに合流したのは5月初頭。ここまで登板時は主に嶺井博希がマスクをかぶっているが、今永の良さを引き出すいいリードをしている。果たして嶺井とはどんな話し合いがもたれているのだろうか。
「嶺井さんがいつも言うのは『いいところはなにも変えるな』ということですね。おそらくキャッチャー心理からして、いい球があるのに、それ以外のボールを打たれたらもったいない、と考えているんだと思います。僕は今季、真っすぐの状態がそこそこいいので『特になにかをかわそうとかではなく、ただシンプルにいいコースに投げ込んでいく。それだけでいいと思うよ』というアドバイスはもらっています」
キャッチャー目線で、いいと思ったボールをコースに迷いなく投げさせる。これ以上の正解はないのだろう。その証拠に大記録がかかった9回裏2アウト、最後の打者である野村佑希に対して全球ストレート勝負。外角低めに行った3球目をライトフライに打ち取りゲームセットとなった。
あの緊張の場面、今永は、嶺井と言葉にならない会話をしていた。
「あのとき嶺井さんのサインの出し方が特徴的だったんですよ。なにかこう力強く(指を)ボンって出すんです。1球目のサインが出て、野村選手が見逃してストライク。その瞬間、あっ、あのサインの出し方と嶺井さんの雰囲気、これは3球とも真っすぐだなと思いました。たぶん延々と真っすぐだったと思いますね、5球でも6球でも」
今永はそう言うと微笑み、嶺井に信頼を寄せていることを窺わせた。
「嶺井さんに後から聞いたら『ここはもう俺はなにもできないから、変なことせんとこう』って言っていましたよ」
「みんなが笑顔でいること。それが何物にも代えがたい瞬間」
淡々と勝利を受け止め、はしゃぐこともなく、最後はマウンドを足でならし、一礼してグラウンドを後にした今永。そしてロッカールームで待っていたのがサイレント・トリートメントだ。球団の公式動画でも公開されているが、最後にロッカールームに到着し「来たよー」とアピールする今永を徹底的に無視するチームメイトたち。爆笑やだだスベりもある、何とも言えない雰囲気の良さ。ある意味、今永にとっても喜びがじわじわと湧いてきた瞬間ではないだろうか。
「そうですね。自分のキャラクター的に、みんなに普通に『おめでとう』と言われるより、ひと捻り加えてもらったほうが面白い。まあ、みんなが笑顔でいること。それが何物にも代えがたい瞬間なんですよ」
実力はもちろん、この人間性ゆえの今永の求心力。今永は自分のことを「エースとは思っていない」と繰り返し言うが、しかしそれは自分が決めることではなく、まわりが認めること。現在の今永は、間違いなくエースでありリーダーであると感じてならない。