バレーボールPRESSBACK NUMBER
「稼ぐチームになる意志はあるか」Vリーグに問われる改革の旗振り…FC東京の“譲渡先決定”に安堵してはならない理由
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byVOREAS,INC.
posted2022/06/15 17:00
昨季、V2男子で初優勝を遂げたヴォレアス北海道。積極的な仕掛けが功を奏し、ホームゲームには多くのファンが駆けつける
各チームの地道な努力に加え、不可欠なものがもう1つ。梶原代表は続ける。
「リーグとして稼ぐ意志が見えないのが一番の問題です。各チームで目指す方向性は違い、うちはこうだ、十分やっている、とそれぞれの立場で主張するだけではまとまるはずがありません。バレーボール界全体にとってあるべき姿、世界一のリーグを目指すならば、リーグとして『この方向に進んでいきましょう』と明確な指針を打ち出すべき。そのうえで、賛同できないチームがあるならば、いかに条件がクリアできるかを考え、存続、発展の道を探す。今のバレーボール界に突き付けられているのは、まさにバスケットボール界が越えてきた課題と同じなんです」
競技の枠を超え、スポーツを興行として成り立たせるための大前提として、池田社長や梶原代表が掲げるキーワードはいかに「稼げるチームになるか」ということだ。
プロ云々を問わず、企業経営として当然の発想なのだが、前述の通り現状のV1は大企業に属するチームが大半で、選手のほとんどが社員。皆十分すぎるほどの給料や環境を与えられているのに、なぜ「稼ぐ」必要があるのか、と嫌悪感や疑問を抱く人も未だ少なくない。実際のスポンサー営業の現場でも「なぜ企業チームにスポンサードしなければならないのか」と疑問をぶつけられることも少なくないという。
だが、V1で戦い続けるならば人件費や体育館などの環境整備、遠征費に加え、ホームゲーム開催地の都道府県協会への運営費。それとは別に、Vリーグへの登録料、上納金も支払う。チャレンジシステムの機材や、コート周りのグリーンフェンスなど必要経費とはいえ支出はかさむ一方で、公益法人のVリーグが得た利益が各チームに分配されることはなく、経費は数億にも膨れ上がる。チームを所持する企業としては「なぜこれほど金がかかるのか」と思うのは当然だ。そして最悪の場合、「支出に見合った価値がない」と判断されれば、休部や廃部という結論に至る。
現役時代に廃部を経験した中西GM
FC東京の活動休止からさかのぼり、2009年5月に活動を休止したチームがある。FC東京と同じく東京を拠点としたNECブルーロケッツだ。当時のチームに在籍し、現在はNECレッドロケッツのゼネラルマネージャーを務める中西了将氏はかつての経験と今を重ねる。
「会社だけでなく、協会、リーグから、私たちは見捨てられたんだ、と。突然知らない世界に放り出されて、何もわからないまま社業に就く。今となっては、その試練や経験のおかげで成長させてもらったので感謝していますが、(FC東京の)決定を聞いた時も、かつての当事者としては複雑な思いもありました」
選手としての心情を吐露する一方、営業職を経験し17年からチームのコーチを務め、現在は選手の採用など強化を軸に、チーム運営に携わる立場から、また異なる見解も示す。
「自分の価値、チームの価値を理解してもらうためにどれだけ行動してきたか。バレーボールをやればそれでいいというのではなく、地元の方々に知ってもらう、スポーツチームがあるからこそできることを地域に還元する。それができていないのに価値の最大化だけを求めてもダメなんです。休部になります、という時に署名活動をして何万人という数を集めて『これだけ価値があるんです』と言っても手遅れ。経営陣から『チームの価値は何なんだ』と言われた時に、すぐ出せる材料を持っておかなければならない、というのは改めて肝に銘じました」