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津波が襲った球場で12年ぶり福島大会…“21世紀枠の只見”は甲子園を経験して何が変わった?「もう1回、あの場所に」
posted2022/05/26 17:01
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Genki Taguchi
田園風景が広がる。海岸沿いでは風力発電の風車が穏やかに回旋している。
福島県南相馬市。11年前、海からおよそ2キロに位置するこの町は、東日本大震災によって甚大な被害を受けた。避難場所だったはずのみちのく鹿島球場にすら、津波で崩された家屋、木材や瓦礫、自動車と、重力と行き場を失ったあらゆるものが押し寄せ、瞬く間にグラウンドを飲み込んだ。
球場の復旧工事が終了し、ようやく日常を取り戻したのが2015年。そしてこの春、12年ぶりに高校野球の県大会が開催された。新型コロナウイルスの影響により無観客だった県内の試合も、制限付きながら3年ぶりの有観客と少しずつ平時を取り戻しつつある。
12年ぶりに“あの球場”で…「縁を感じます」
「いやぁ、もう感慨深いものがあります」
福島県高校野球連盟の木村保理事長がしみじみと話す。同球場での県大会開催が復活したのは、「夏は大規模の球場をメインとするが、春と秋は県内各地に開催地を広げたい」という理事長の構想が実ったそうだ。
木村の感慨はそれだけではなかった。試合開催の2日間で、センバツに出場した聖光学院と只見が登場したのである。
「この球場で今年のセンバツに出た2チームが試合をするなんて、とても素晴らしい縁を感じます。県大会常連の聖光学院さんはここで試合をしたことがあるでしょうけど、会津地区の只見高校さんがここで試合をする機会なんて、そうそうないわけですからね」
センバツ以降、初の公式戦。結果は…
只見にとって春季大会は5大会ぶりの出場だった。福島県の場合、センバツに出場した高校は支部予選が免除されるため、この県大会が甲子園以降、初めての公式戦でもあった。
相手が県内の強豪で、格上と目される東日本国際大昌平であっても、只見のテンションはいつもと変わらない。
試合前の円陣ではユーモアを発揮し、ベンチでの活気も漲っている。相手の先発ピッチャーが140キロ台のストレートを連発し、プロのスカウトも着目する草野陽斗であっても委縮するような姿勢はなかった。
2回にキャプテン・吉津塁がチーム初ヒットを放つ。すると、監督の長谷川清之がジョークを交えながら選手たちを乗せる。
「これでノーヒットノーランなくなったな!」