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甲子園の風BACK NUMBER
“中学野球のカリスマ指導者”が仙台育英に電撃加入のワケ「何か起きたら連帯責任で罰すれば簡単。でも…」心酔した“令和のチーム運営”とは?
posted2022/05/18 11:02
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph by
Takahiro Kikuchi
その男・猿橋善宏氏は言う。「強いチームを見たら、『勝ちたい』と思いませんか?」(全2回の後編/前編へ)
それは中学軟式野球を知る人間にとって、衝撃のニュースだった。
猿橋善宏氏が仙台育英高校の野球部長に就任――。
猿橋氏は中学野球部監督としてカリスマ的な存在だった。利府町立しらかし台中、松島町立松島中を率いて4度の全国大会出場に導いた表面的な実績のみならず、時代に応じて社会で戦える生徒を育成する手腕は広く知られていた。部活動のあり方にも一家言を持ち、『部活はそんなに悪者なのか!? 脱ブラック部活! 現役教師の挑戦』(大利実氏との共著)という著書も出版している。
その猿橋氏が60歳の定年を迎えて中学教諭を退職し、仙台育英高校へと電撃加入したのだ。
なぜ、中学野球部の名将を招聘した?
真新しい名刺を差し出し、猿橋部長は柔和な笑みをたたえてこう言った。
「ICT(情報通信技術)に戸惑っていますよ。中学校はいまだに紙を使うことが多いですけど、育英では全部コンピューターを使わなければなりませんから」
猿橋部長を招聘したのは、須江航監督だ。2018年から現職に就いた須江監督だが、それまでは仙台育英秀光中で野球部監督を務め猿橋部長の手腕を目の当たりにしていた。
「猿橋先生が定年まであと2~3年に迫った頃から『力を貸していただきたい』という趣旨のことはお伝えしていました。猿橋先生も退職後にいろいろと考えていたことがあったと思うんですけど、タイミングが合って引き受けていただけました」
39歳の須江監督が60歳の猿橋部長を招く。実績のあるベテラン指導者が側近とは、やりにくいのではないかという想像もふくらむ。だが、須江監督には、猿橋部長を求めるだけの理由があった。
「監督を4年やってみて、自分がほしかったものを提供してくださる人だと思いました。経験のある方なので生徒とのかかわりも頼もしいですが、運営する大人にとって学びのある人がほしいと考えていたんです。若いコーチ2人にとって道しるべになれる人、監督として相談できる人。そう考えると、猿橋先生が適任でした」