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津波が襲った球場で12年ぶり福島大会…“21世紀枠の只見”は甲子園を経験して何が変わった?「もう1回、あの場所に」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/05/26 17:01
福島県南相馬市で12年ぶりに高校野球の県大会が開催された。21世紀枠でセンバツに出場した只見はどんなプレーを見せたか
草野からはこの1本だけだったが、後続のピッチャーから攻略の糸口を作り始め、7回に吉津の2本目のヒットで1点を返した。
1-4。只見は初戦で敗れたが、スコアとしては十分に健闘に分類される。しかし、試合後の囲み取材での長谷川の表情は、どちらかというと硬かった。
「選手たちがどんな課題を持つか、どれだけ悔しい想いを持ってくれるかでしょうね。そこからチーム内にいい競争が生まれてくれれば、夏に繋げられるんじゃないかと思います」
只見にとって「甲子園でプレーした」意味
堂々たる佇まい。敗れてなお、監督と選手にはそんな空気が漂っていた。
監督の長谷川にそんな趣旨の質問を向けると、囲み取材とは真逆の表情を見せる。
「140キロですよ。打てない、打てない」
そう言ってから、大柄な体を折り曲げるほど謙虚に振る舞った。
「でも、点を取らないと勝てませんから、『だったら、来た球に対してしっかりバットを振ろう』と。これでいいんです。選手たちは今の自分の力を知っている分、臆することなく相手に向かってくれたと思います」
只見には大きな基準ができた。
「甲子園でプレーした」という事実が、選手たちの今とこれからを形成していってくれるのだろうと、長谷川は見ている。だからこそ、苦言も自虐も前向きなのである。
学法石川の選手時代、自らもプレーした場所にもかかわらず、まるで初めて甲子園の土を踏んだかのような感激を見せていた。
「だって、甲子園でプレーさせてもらえたんですよ。あの球場の雰囲気。しかもナイター。滅多に経験できないことを経験できたことで、あの子たちは目標をより明確にイメージできるようになったと思うんです」
甲子園で強豪に1-6。選手は何を感じたか
21世紀枠での初出場となった只見にとって、センバツの相手は全てが格上チームのような存在だった。初戦の大垣日大は4度目の出場。監督はこの時点で甲子園通算38勝の名将・阪口慶三である。そんな手練れを相手に、先発ピッチャーから18三振を奪われながらも、只見はワンチャンスをものにして1点を挙げた。1-6という敗戦がチームに与えたのは、失望ではなく光明だった。
キャプテンの吉津が意思を打ち出す。
「予想していたより、甲子園でも戦いが通用したのは自信になりました」
この言葉が示すように、練習環境に恵まれない日本有数の豪雪地帯から出場したチームは、甲子園で確かな何かを手にしたわけだ。