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“藤井聡太14歳と戦った男”が異色の将棋ベストセラー著者に 「敗戦に関する痛覚は完全にバグってます」AI研究に没頭する今とは
text by
白鳥士郎Shiro Shiratori
photograph byTakashi Araki
posted2022/05/24 17:00
奨励会時代に藤井聡太と戦った頃の『あらきっぺ』さん
「奨励会を退会した半年後ですね。このまま何もアウトプットをしないと、自分が奨励会で培った技術が何も残らないという寂しさがあったので。
私には学歴もありませんし、26歳で社会に放り込まれているわけですから。他人と同じことをやっても、社会的に生き残れないという危機感がありました」
——大きな反響のあった記事は何でしたか?
「初期の頃にアクセスを集めた記事は『藤井聡太から学ぶ勝利の法則』です。ちょうど29連勝がストップしたあたりで書きました。
29連勝するというのは、何か突出したものがあるわけで。ニュースだと詰将棋の力が抜群だとか、将棋ソフトを使っているからだとか、そういう報道がなされていたんですが……これは正直言ってダウトなんですよ。
藤井さんほどではないにせよ、プロ棋士には詰将棋の解図力が高い人がたくさんいますし。将棋ソフトも、今ほど浸透していないにせよ、プロの半分は使っていたはずなので。
だからもっと他の理由があるはずだと。それを可視化したかったので、藤井さんの棋譜を片っ端から並べて3つの理由を抽出しました。そのときに、自分は分析系の記事が得意なんじゃないかという手応えを得ました」
29連勝当時の藤井将棋分析について絞った“3点”とは
——当時の藤井将棋の分析結果は、どんなものだったのですか?
「『玉をそんなに固めない』『攻めの桂をものすごく重視して、非常に早い段階で活用する』『中央の厚みを重視する』。この3点に絞って書きました」
——朝日杯で出口四段(当時)と対局したのは2019年ですよね? その頃はどのように過ごしていらっしゃいましたか?
「ブログは書いていたんですが、特に仕事が来るとかではなく。初段以上の元奨励会員は規定によって退会から1年間はアマ大会に出られないので、それが解けてからは大会にも出るようになりました」
——そこに葛藤はなかったですか?
「同世代の人たち……元奨励会員もそうですし、純粋アマのプレイヤーの方々がいっぱいいて、『そろそろ荒木も来るだろ』という話もあったみたいですし(笑)。むしろ最近の風潮だと、出ないと『え? あいつ何してるの?』って雰囲気です。
将棋大会に出ると、軽い同窓会的な感じでもあるので。葛藤という感情を抱きながらアマ大会に参加される方って、もういないと思いますよ」
目標にしていたのは豊島将之先生です
——朝日杯では奨励会を抜けて勢いのある出口先生と、そして森信雄門下の兄弟子に当たる大石直嗣七段という、プロ2名を破る活躍を見せました。特に出口先生は今期の叡王戦で挑戦者となり、藤井叡王と五番勝負を行うほどの強豪です。
「出口さんや大石さんと戦った自分が、奨励会の頃よりも強かったかは、正直わからないんですよ。確かなことは、“アマチュアに戻った荒木隆”のほうが、間違いなくいい精神状態で将棋を指しているので。いいパフォーマンスを出せるのは今の自分かなと。
明らかに伸びている部分は、知識です。将棋ソフトを使うと、序盤の知識をものすごく高めやすい。その点に関しては奨励会の頃よりも今のほうが伸びています。自分は将棋ソフトを使えば使うほど強くなるというか、将棋ソフトとの親和性が高いと思うので」
——ソフトを使うのにも適性があるんですか?