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熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
「オシムさんは負けてもホメてくれる時が」「敵ながら“すごい監督だな”と」三都主アレサンドロが体感した“ブラジルサッカーと同じ根幹”
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byKyodo News
posted2022/05/06 18:00
2006年日本代表合宿での三都主アレサンドロとオシム監督
「プロの監督、コーチ、選手なら誰でも、勝利に非常にこだわる。当然だよね。でも、彼は『負けることも重要。敗戦から学ぶことは多い』と言っていた。
勝っても不機嫌なときがあるし、負けても褒めてくれることがある。この点でも、他の監督、コーチとは違っていた」
もしオシムが監督だったら、全く違ったチームに
――その後、オシムは2007年11月に急性脳梗塞で倒れ、日本代表監督を退任。岡田武史監督が後を継ぎ、2010年W杯本大会に出場してグループステージを突破しました。もしオシムが病に倒れず、2010年W杯で日本代表を指揮していたら、どんなチームになっていて、どんな成績を残していたと思いますか?
「岡田さんは現実主義者で、2010年W杯では守備的な方向へ舵を切って結果を出した。でも、もしオシムが監督だったら、全く違ったチームになっていたと思う。より主体的、攻撃的なチームになっていたんじゃないかな。それで結果が出たかどうかはわからない。でも、非常に魅力的なチームを作っていたのは間違いないと思う」
――現在、あなたはマリンガで選手育成専門のクラブを運営するかたわら、プロクラブ(パラナ州リーグ2部)のGMを務めています。彼の教えを実践している部分はありますか?
「たくさんあるよ。選手にどんな話をするかを考えるし、こちらから答えを与えず、自分で考えさせること、多くのポジションをこなせる選手を育てることを心がけている」
“自分で考える”はブラジルでも共通の普遍性
イビチャ・オシムは、オーストリアで亡くなった。しかし彼の教えはこれからもヨーロッパで、日本で、そしてブラジルで生き続ける。
ブラジルでは1980年代以降、守備はゾーン・ディフェンスが基本だ。また、「人ではなくボールを走らせること」が良しとされる。オシムが志向したフットボールとブラジルの伝統的なフットボール観は、表面的には真逆のように見える。
しかし、実際には試合の局面によって、ポジションによって選手はマンツーマン気味にマークすることがあるし、「常にスペースを探し、そこへ走り込むこと」は監督、コーチから言われるまでもなく誰もが実践している。また、「自分で考えてプレーすること」はブラジルのフットボールの根幹を成す。
三都主アレサンドロや田中マルクス闘莉王がその教えを短期間に理解し、かつ実践できたことからもわかるように――オシムが日本人に教えたかったことは、ブラジルや南米のフットボールとも相通じる普遍的な事柄、即ちフットボールの本質だったのではないだろうか。 <つづく>
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