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「まさか、こんなに至近距離で撮影ができるとは…」猪木vsアリを激写したカメラマン(当時大学生)の証言「時間の感覚がなくなった」

posted2022/04/21 17:01

 
「まさか、こんなに至近距離で撮影ができるとは…」猪木vsアリを激写したカメラマン(当時大学生)の証言「時間の感覚がなくなった」<Number Web> photograph by Essei Hara

当時大学生だった筆者がリングサイドに潜り込んで撮影した写真。試合は終始「寝転がって蹴る猪木、挑発するアリ」という展開だった

text by

原悦生

原悦生Essei Hara

PROFILE

photograph by

Essei Hara

1976年6月26日、日本武道館で行われたアントニオ猪木vsモハメド・アリの「格闘技世界一決定戦」。50年間に渡って猪木を撮り続けた写真家は、いまだ語り継がれる「世紀の一戦」をどのように見つめていたのか。貴重な写真とともに当時の記憶を振り返る。(全3回の2回目/#1#3へ) ※本稿は原悦生氏の著書『猪木』(辰巳出版)の一部を抜粋、再編集したものです。

 猪木vsアリ戦を前に、私は大事なことを忘れていた。

 当然、この猪木vsアリ戦も私は撮影するつもりでいた。しかし、地方の体育館とは違い、日本武道館のリングサイドに勝手に入ることは難しいはずである。各社のカメラマンやテレビ朝日のクルーが大勢いるだろうし、世界が注目する大一番だけに警備も厳重に違いない。

 そこで日本武道館の2階席から猪木vsアリ戦を撮影するために、“自主練”をしておく必要があったのだ。初めて望遠レンズを使ってのプロレス撮影になる。おそらく、ぶっつけ本番ではうまく行かないだろう。その頃、250ミリの望遠レンズは持っていたが、念のため小田くんの600ミリのレンズも借りて私は“練習試合”に臨んだ。

 それまで望遠レンズでは、つくば市にいた頃に母校の高校野球の試合を撮ったことがあった。

 さらに1973年1月に国立競技場でサッカーの全日本vsバイエルン・ミュンヘンの試合があった時、切符を購入して中に入り、メインスタンドから階段を降りたらピッチに入れたので、そのままゴール裏のカメラマン席で写真を撮ったこともある。当時、バイエルン・ミュンヘンにはフランツ・ベッケンバウアーがいて、彼が好きだった私はどうしても撮りたかったのだ。1990年代になって、この時のカットがサッカー専門誌に掲載された際には「どうして、この試合の写真を撮っているんですか?」とサッカー協会の広報担当から笑われた。

ジャンボ鶴田の試合で望遠レンズを“試し打ち”

 猪木vsアリ戦を前に、練習にぴったりの試合があった。約2週間前の6月11日、蔵前国技館で行われたテリー・ファンクvsジャンボ鶴田のNWA世界戦である。

 試しに、正面側てっぺんの自由席から600ミリと250ミリのレンズで撮ってみた。高額なレンズではなかったので写真の仕上がりは想像していたよりも暗く不出来だったが、少しだけ感触は掴めた気がした。

「猪木vsアリ戦のゴングが鳴ってしまった。それなのに自分はまだ電車の中で、やきもきしながら九段下に向かっている」

 この時期、そんな夢を何度か見た。それほど絶対に見逃せないという思いが強かったのだろう。

 当日の朝、私は練馬のアパートから一人で日本武道館に向かった。前座の試合開始は、アメリカでの中継に合わせるため午前9時半に設定されていた。

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