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アントニオ猪木vsモハメド・アリは「世紀の茶番劇」だったのか? 酷評の裏で芽生えた“不思議な友情”「アリは俺と2人だけの時は…」
posted2022/04/21 17:02
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「なんだ、猪木、アリ」
「世紀の茶番劇」
「世紀の凡戦」
これらは、その日の夕刊の見出しだ。
猪木とアリの格闘技世界一決定戦は酷評された。マスコミは派手な試合内容を勝手に想像していたはずだが、予想とまったく違う展開となったため取り上げ方に困った末の批判だったのだろう。
いわゆる猪木がアリ側から強いられた「がんじがらめのルール」のことは、ある程度の層は知っていたはずだと私は思っている。だから、1ラウンド開始直後に猪木がスライディングキックを放った瞬間、「ああ、こういう戦い方があったか!」と場内の観客がどよめいたのだ。
「猪木・アリ勝負つかず 猪木ダウン2度奪うも空し」
東京スポーツだけは、冷静で好意的な見出しだった。
軽いヒットで大きなコブが…アリのパンチの威力とは
後に知った話だが、この日、東京スポーツ写真部の鈴木晧三カメラマンはリング上の照明に長尺のフィルムを入れたリモートコントロールのカメラを仕掛けていた。
当初の目的は上からのKOシーン狙いのはずだが、その上空のカメラはアリが放った1発のパンチが猪木にヒットした瞬間をとらえていた。鈴木さんは暗室でドキドキしながらフィルムを切って、現像したそうだ。
「あのパンチ、確かに当たっていたよ」
鈴木さんは晩年になってから、嬉しそうにそう話していた。
試合中、アリはパンチを軽くヒットさせただけだったが、猪木の頭には大きなコブができたという。後に猪木とこの試合の話になった時、「一度か二度、かすっただけなんだけどね」と不思議がっていた。
本当にアリのグローブの中のバンテージは、何かで固められていたのだろうか。まことしやかに言われていることだが、私はそれには否定的な見方だ。
ヘビー級のパンチはヒットさえすれば相手は倒れるのだから、ボクサー生命にかかわる自分の拳を痛めるような危険なマネはしないはずだ。怪物のようなフォアマンが倒れたシーンを思い浮かべたら、その威力に納得するしかないだろう。
猪木は周囲から提案されてもシューズに鉄板を入れるといったようなことはしなかったし、アリも小細工は必要としなかった。