野球クロスロードBACK NUMBER
近江の選手「ホンマに明日、甲子園で試合すんのかな?」“落選ショック→繰り上げ出場→準優勝”…その時、選手&監督は何を思ったか?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/04/04 11:01
開幕直前で決まった繰り上げ出場――もう、「京都国際の代わり」と呼ぶ者はいない。彼らは本物のセンバツ代表校となった
5回に山田が左かかと付近に死球を受け、打席で悶絶する。ベンチで応急処置を受けても、足を引きずる姿は痛々しかった。
「俺は大丈夫や。いつも通りでいいから」
エースの言葉に「うん」と頷きながらも、ボールを受ける大橋が一番異変を感じていた。
「マウンドに向かう時も、ずっと足を引きずっていたし、ストレートも踏ん張り切れないから球も来てなくて。『痛そうやな。大丈夫かな』って思ってました」
スライダーなど変化球中心の組み立てに変え相手打線を抑えるリードに、津田は「山田のピッチングだけじゃなくて、大橋のリードや声掛けもあって、このチームは勝ってきた」と、近江の矜持を再確認していた。
試合を決めたのは、その大橋だった。
延長11回裏。1死一、二塁から170球の熱投を支えた女房役の一撃は、人生で初めての柵越えとなるサヨナラホームランだった。
「ナイスバッティング」
バックスクリーンを見つめ校歌を唄いながら、山田から感謝を伝えられる。
「ありがとう」
大橋が満身創痍の相棒に、短く返した。
完敗の決勝、“甲子園の拍手”が示すもの
繰り上げでのセンバツとなった近江は、代替出場のチームでは歴代最高となる決勝まで勝ち上がった。
「京都国際のために」
爽やかな青き旋風を巻き起こした近江は、甲子園で戦えるはずだったチームの想いを力とし、戦った。
決勝戦は大阪桐蔭に1-18と大差で敗れた。大黒柱の山田は序盤で力尽き、相手の猛攻にさらされながらも、しかし甲子園は、彼らに拍手を贈り続けた。
近江の「感動発信」。その答えを見たような気がした。
――京都国際の選手に伝えたい言葉は?
監督の多賀が、こんなことを言っていた。
「『全国の高校野球ファンから愛されるのは、どんな選手やねん?』って、最近よく話すようになったんです」
今年のセンバツ。それこそが、山田であり、近江の選手たちだった。
試合が終わり一塁側アルプススタンドに挨拶を終えると、監督が選手を集めて言った。
「見事な準優勝や。こういう試合になったけど、しっかり閉会式に臨もうな」
悔しさはある。でも、近江はやりきった。もう、「京都国際の代わり」と呼ぶ者はいない。彼らは甲子園で感動を与え、本物のセンバツ代表校となった。
――森下(瑠大)など、京都国際の選手に伝えたい言葉はありますか?
決勝戦後のオンライン取材で、山田にそんな質問が向けられた。少し戸惑ったように「難しいですねぇ」と、適切な言葉を模索するように首を捻る。そして、短く答えた。
「『自分なりに頑張った』と、伝えようと思います」
マスク越しでも、センバツの「主役」が穏やかに笑っているのが分かった。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。