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近江の選手「ホンマに明日、甲子園で試合すんのかな?」“落選ショック→繰り上げ出場→準優勝”…その時、選手&監督は何を思ったか?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/04/04 11:01
開幕直前で決まった繰り上げ出場――もう、「京都国際の代わり」と呼ぶ者はいない。彼らは本物のセンバツ代表校となった
「1月28日の落選から、そういう気持ちで春大(春季大会)を目指してやっていましたけど、やっぱり甲子園に出られない悔しさからモチベーションは上がらなかったです。実戦に入るのも少し遅れましたし、牽制とか投内連携とか、内野と外野のカットプレーとか、守備の練習もあんまりできませんでした」
なんかある――そう信じ、準備を進め、実際に「何か」は起こった。センバツ出場は近江が望んだ結果ではあったが、その経緯は決して喜べるものではなかった。どちらかと言えば、複雑な心境で支配されていた。
「ホンマに明日、甲子園で試合すんのかな?」
「いたたまれない気持ち」
キャプテンの山田をはじめ、選手全員がこの言葉を用いて辞退したチームを気遣った。
何より、実感が湧かなかった。
初戦は大会2日目。初日が雨により順延されたことで20日の試合まで2日の猶予があっても、準備には時間が足りなすぎる。出場チームには宿舎が割り当てられるが、その手配も間に合わず、当日は学校のある滋賀県彦根市から甲子園に向かうことが決まった。
試合前夜。津田は自宅で夕食を摂っていた。昨夏もメンバーとして甲子園でプレーしていただけに、余計に違和感があった。
「ホンマに明日、甲子園で試合すんのかな? ここにいていいんかな?」
家族にそんな本音を漏らしたほどだった。
試合当日。チームは6時30分に出発した。自宅の場所の都合で津田と山田、中瀬樹、星野世那の4人は、名神高速道路の草津パーキングエリアで合流し、甲子園へ向かった。このことからも、近江からすれば何もかもがイレギュラーな形での初戦だとわかる。
ゲーム前の室内練習場。選手はリラックスしているように、監督の多賀には映っていた。
しかし実際には、どこかふわふわしたような雰囲気が漂っていたと、山田が明かす。
「センバツの出場が決まってから、実感が湧いていないような選手が多かったと思います」
長崎日大戦前にキャプテンが鼓舞する。
「相手どうこうよりも自分たちの野球をやろう。絶対に勝てる!」
激戦の初戦を制し、「顔つきが変わっていきました」
近江の野球とは、エースの山田が最少失点に抑え、繋ぎの打線で粘り勝つことだ。少しずつ選手たちの緊張がほぐれる。
5番バッターの岡崎幸聖が促す。
「せっかくチャンスもらったんやから、思いっきりやろう」
内野の要である津田も、フィールドから声を上げ続ける。