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近江の選手「ホンマに明日、甲子園で試合すんのかな?」“落選ショック→繰り上げ出場→準優勝”…その時、選手&監督は何を思ったか?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/04/04 11:01
開幕直前で決まった繰り上げ出場――もう、「京都国際の代わり」と呼ぶ者はいない。彼らは本物のセンバツ代表校となった
「楽しもうや!」
6回にエースが捕まり2点を先取されたが、9回に岡崎のヒットで1点差とすると、土壇場の2死から女房役の大橋大翔のタイムリーで同点。延長タイブレークまでもつれ込んだ試合は、13回に4番・山田の決勝打など4得点。最後も大黒柱が締め、熱戦を制した。
いつもの近江の姿が甲子園で映える。チームの闘志がより鮮明になる。
「初戦が終わってから、明らかに顔つきが変わっていきました」
そう山田が目力を宿せば、監督の多賀も「初戦の勝ちでチームが乗り、1戦ごとに成長してくれた」と拳を握った。
2回戦、監督が山田に喝…「みんなで野球やっとるんや」
2回戦の聖光学院戦。試合序盤から制球が定まらない山田が、監督から喝を受ける。
「みんなで野球やっとるんや。バックはお前ならやってくれるって信じてるんや!」
チームが引き締まる。7-2の快勝。エースが87球の完投劇を披露した。
秋の雪辱戦となる金光大阪との準々決勝。2-1の7回に相手のミスを突く津田の好走塁や、中瀬のセーフティスクイズで3点差に広げ、迎えた8回表。ピンチでセカンドの津田が山田に声をかけ、鼓舞する。
「これや! ナイスタイミング」
ベンチで監督が唸る。「このチームは山田をひとりにしてない!」。昨秋を糧に引き締めてきた試合展開。6-1とリベンジを果たした試合後のミーティングで、監督が再度問う。
「勝ち負け関係なく、また感動発信できたな。野球は本当に素晴らしいスポーツや。次もこういうゲームやろうな」
感動発信。それは近江の生き様に通ずる。
「山田のチーム」と評されることに、拒否反応を見せたくなる選手だっている。だが、副キャプテンの津田が「あいつがキャプテンとして先頭に立ってくれるなら、自分は内野の中心として試合中は守備で声をかける」といったように、各選手が自らのプライドを見出し、それをグラウンドで打ちだしている。
山田とバッテリーを組む大橋もそのひとりだ。内気な性格で、山田から「日本一になるためには、それじゃダメや」と毎日コミュニケーションを取るうちに、徐々に意識改革できたと大橋は認めている。
準決勝、捕手・大橋サヨナラ弾のウラ側
近江の生き様。それをセンバツで最も体現できたとすれば、準決勝の浦和学院戦だ。