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《初のセンバツ4強》國學院久我山の元エース左腕はなぜ“データ分析”の世界へ? “練習2時間”の野球部で得た「考える習慣」と「疑問」
posted2022/03/29 11:06
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph by
Ryota Morimoto / Taichi Chiba
センバツで念願の大会初勝利を挙げた勢いそのまま、初のベスト4入りを果たした國學院久我山高校。昨秋には明治神宮大会に出場するなど、近年は好成績を残しており、さらに昨年末にはイチロー氏が野球指導に訪れたことでも話題を集めた。
そんな同校野球部のOBで、現在は違った形で野球と携わっている青年がいる。IT技術を野球をはじめとしたアスリートのパフォーマンス向上に活かすスポーツテック企業「ネクストベース」でアナリストを務める森本崚太さん(29歳)である。
森本さんは高校時代、國學院久我山高のエース左腕として活躍した。進学した大学でも野球部に所属したが、夢半ばで退部。そこから研究の道に進んだ。大学院でデータ解析を学び、科学的な要素と現場をつなぐ役割に魅力を感じ、ネクストベースに入社。現在はプロ野球チームや社会人野球チームと契約を結び、個人契約では何名ものプロ野球選手と深い関係を築いている。
アナリストという役割は、アメリカンフットボールやバレーボール、ラグビーなどの競技では各チームに1名以上が在籍し、各スポーツ界のチームにとってなくてはならない存在となっている。最近では福岡ソフトバンクホークスも新卒でアナリストを雇用することを発表するなど、プロ野球界でも認知されつつある職種である。
では野球界において “アナリスト”とは、いったいどうった職業なのか。
選手の能力を引き出す“お手伝い”
「僕はプロ野球をはじめトップ層の選手やチームに携わることが多いのですが、チームのコーチや投手陣にデータの講義をしたり、選手一人一人の分析レポートを書いたりします。個人契約の選手に対しては、彼らの投球映像やあらゆるデータを使って、日々の試合を振り返ったり、オフシーズンは東京に来てもらって一緒に自主トレをしながら“ピッチデザイン”を行います。
ピッチデザインというのはボールの変化や回転を計測しながらハイスピードカメラで映像を撮影し、持ち球の球種の精度をあげたり、一緒に新しい球種の獲得を目指す取り組みです。選手の特徴に合わせ、”今の現在地”や“どういった球種が必要なのか”をデータから導き出した上で、選手たちと対話しながら能力開発を支援します。いわば投手の能力を引き出す“お手伝い”ですね」
近年ではデータ分析に興味を抱く野球ファンが増えたこともあり、メディアにもデータ提供を行なっている。社会人野球の都市対抗大会では試合中継では森本さん自身も解説者として映像中継に顔を出すこともあった。さらに打球速度や角度が瞬時にわかるアプリケーション『nextshot』を自社でローンチするなど、今後、さらに活躍の場が広がっていくだろう。