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「日本では給料日が前倒しになるの?」サッカー代理人が明かす、なぜブラジル人選手は日本が好きか?「治安がいい…だけじゃない“お金の事情”」
text by
栗原正夫Masao Kurihara
photograph byGetty Images
posted2022/03/25 11:02
柏(2010~14年)、名古屋(14~15年)、横浜FC(17~20年)で活躍したレアンドロ・ドミンゲスもやはり稲川氏の契約選手だった
「あのときは目の前でコリンチャンスとの契約書を破らせて日本に連れてきました。それも、まだ柏がJ2だった時代です。その後レアンドロ・ドミンゲスは、柏のJ2優勝、その翌年のJ1優勝に大きく貢献するわけですが、彼がなぜコリンチャンスではなく柏を選んだかといえば、日本のクラブの信用度が高かったからだと思います。
海外では立派な契約書があってもそれがきちんと支払われない場合もあれば、サラリーの遅延なんてザラ。日本ではそうしたことはほぼ皆無ですし、入金日が土日、もしくは祝祭日だった場合には、その振り込みが前倒しされることもあります。そんなことはブラジルでは絶対にないですから。加えて、ブラジル人のサッカー選手の所得税は基本27.5%ですが、日本に来ることでその負担が軽くなればなおいいわけじゃないですか」
一時期はアジアのマーケットでも中国スーパーリーグのクラブが大金を費やしてブラジル人選手をはじめ、世界中からビッグネームを買い漁ったことがあった。だが、住環境や信用度、ホスピタリティという点で日本行きを選ぶブラジル人選手は多いのかもしれない。
「日本で肉はどこで買ったらいいか」まで知っている
これまで日本で多くのブラジル人選手がプレーしてきただけでなく、現在も多くのブラジル人選手がプレーしていることで、日本の情報がすぐに手に入ることも安心材料につながっているのだろう。
「いまは何でもインターネットで調べられますが、選手同士も情報交換はしているみたいです。たとえば日本でどうやったらグローボ(ブラジル最大のテレビ局)の放送を見られるかとか、肉はどこで買ったらいいかとか……来日したときにはすでにそんなことまで知っていますからね」
そして日本のエージェント業界で、稲川が長くブラジル人選手の獲得などにおいてリードしてきた背景には、単に選手を移籍させるだけでなく、選手やクラブの双方のメリットやデメリットを把握しながら、丁寧に信頼関係を築いてきたこともあるだろう。
稲川の事務所には3人の日系ブラジル人の女性スタッフがおり、契約が決まれば彼女たちが選手や家族を可能な範囲でサポートしている。
代理人としては、仲介にかかわった選手が移籍したクラブでどんなプレーをするかは当然気になる。だが、移籍が決まったあと、稲川が表に出ることはほとんどない。選手とはスタジアムで挨拶をかわす程度で、無論プレーや起用法などに口を挟むこともない。現場の人間ではないのにあれこれ言うのは失礼に当たると考えているし、ネガティブなことを言ったところでいい方向には向かわないと理解しているからである。
「何か大きな問題でもあれば出ていくこともありますが、基本は何も言いません。クラブ側も代理人に変な影響力を持ってほしくないと考えているでしょうしね。だから、適度な距離感を保って、選手には『元気で頑張れ。もしクビにでもなったら、また違うチームを探してやるよ』って言うくらいですね」
<#3へ続く>