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ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
アシマ夫人「イヴァンは話したくないと思います」旧ユーゴで戦火に翻弄されたオシムが、ウクライナ情勢に触れたがらない理由
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byAFLO
posted2022/03/04 11:00
1990年のイタリアW杯でユーゴスラビアを率いて準々決勝に進出。マラドーナを擁するアルゼンチンにPK戦で敗れた。オシムはこの時49歳
そうして始まったオシムとの対話は、事前に予想したように深いものにはならなかった。15分の電話インタビューの限界ではあるが、それでもオシムが政治と政治が引き起こす戦争に対して、それが生み出す惨禍に対してどう思っているかを、敢えてサッカーに話題をフォーカスさせて明るく語る彼の言葉からうかがい知ることはできる。
2回に分けて掲載するインタビューのまずは前編から。(全2回の1回目/#2に続く)
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――元気ですか?
「ハロー、君はもう食事は済んだのか?」
――ええ、たくさんではないですが十分に食べました(笑)。
「何があったのか教えてくれ」
――日本では新しいシーズンが始まりました。
「ロシアとウクライナの間で戦争が起こっているのに日本はサッカーか?」
――それについてはとても憂慮しています。
「私はサッカーが政治に打ち勝つことを望む」
――その通りですが……。
戦争まで起こった。ちょっとひど過ぎる
「今は金がサッカーに勝っている。その流れが変わることを願っている。生きていくうえで金はもちろん必要だが、サッカーの世界では金の力が増して、選手や監督の在り方にも大きな影響を与えている。移籍金の額も膨大になり、さまざまな過ちを引き起こしている。サッカーの側から見たとき、それはひとつの敗北であるといえる。多くのクラブが困窮し、選手の獲得に四苦八苦している。
メッシやマラドーナのような選手はそうはいない。彼らは偉大であるがゆえに金銭的な価値ももの凄く高い。たとえ彼らのような存在がいなくなっても、金だけがスポーツの世界に流れ込み蓄えられている。スタジアムの建設やさまざまなインフラの整備、サッカーをよりよく見せるために膨大な資本が投下されている。それ自体は必ずしも悪いことばかりではないが、そうしたことからいったん離れてプレーそのものに回帰すべきときだ」