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「親がお金、お金っていうから…」「上下関係がコワい」最近の中学野球選手の“悩み”…甲子園に行けるか、だけじゃない“高校を選ぶ条件” 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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posted2022/02/26 17:01

「親がお金、お金っていうから…」「上下関係がコワい」最近の中学野球選手の“悩み”…甲子園に行けるか、だけじゃない“高校を選ぶ条件”<Number Web> photograph by Getty Images

先日、中学野球の現場で球児から「どこの高校に行けばいいですか?」と質問された筆者。指導者や先生たちにも話を聞いていくと最近の中学球児が抱える“悩み”がみえてきた(写真はイメージです)

「20年前ぐらいになりますけど、あこがれと同時に、高校野球に進む怖さっていうのか……危機感みたいなものがありましたね、みんなに。ネットはまだ始まった頃ですから、当時、中学生だった僕らにとっては“クチコミ”がネットでした。先輩とか、その先輩の友だちに知り合い……聞きまくりましたよ。どこそこは上級生が怖いとか、監督が怖いとか、寮がきびしいとか。まあその程度の、情報とも言えないような情報ですけど、それでも自分たちなりに、自分で選んで受験してました」

 ところが、今はいざとなれば、先生と親がなんとかしてくれると、本気で思っている生徒が少なくないと嘆く。

「中学までは義務教育ですから、ボーッとしてても社会がお膳立てをしてくれます。でも、高校受験から先は、完全に一転して生存競争になるわけです。足を突っ込んでから彼らがびっくりしたり、折れたりしないように、私は今からなるべく露骨な表現で選手たちに、そのこと言うんです。中学までの友だちは仲間だけど、高校受験から先は、まわりはみんな“敵”だと思えって。高校でのチームメイトも競争相手なんだから、敵だと思って付き合え!って」

 極端な表現なのを承知で、そこまで言わないと、生徒たちが目を覚まさない……とも言う。

「トレーナーがしっかりしている高校ってあるんですか?」

 別の場所で、やはり中学野球の選手と話していて、進路の話になった。

 軟式野球で、結構鳴らしている新3年生左腕だ。

「自分は、1年生でヒジの手術をしてるんで、高校でまた故障しないか、ちょっと心配で……トレーナーさんとか、体調管理がしっかりしている高校ってあるんですか?」

 同じ学年の中学生とは思えないような具体的な進路相談だった。

 ここ10年ぐらい……いや、もっと最近の傾向かもしれないが、高校でも専属のトレーナーさんをスタッフの一員として組み入れて、選手たちのフィジカルの面倒から見てくれる野球部が増えている。

 専属とまではいかなくても、週に何度とか、定期的にトレーナーさんに来てもらって、心配な故障歴を持った選手のケアをしたり、アップの具体的な指導をしてもらって、あらかじめ、故障しにくい体調を維持するための努力をしている野球部や、万が一のために、特定の病院と連携をとる野球部も珍しくなくなっている。

 中学生の進路について、フィジカルケアのバックアップが充実している高校野球部を、選手自身から問われたのは初めてだった。

「怒られたことがない」「親がお金、お金っていうから」

「特に、小学校で硬式野球やっていて、故障して中学軟式に入ってくる生徒が最近は多いですから、本人もそうですけど、親御さんがそこを心配しますね」

 その選手の指導にあたる先生は、進路についての関心事が変わってきていると教えてくださった。

「昔は、どこが強いのか、甲子園に行けるのか……それがほとんどでしたけど、最近の選手は、フィジカルケアや寮の食事の内容とか、上下関係ですかね。別に食が細いわけじゃないので、たくさん食べることは苦痛じゃないみたいなんですけど、甘やかされていて、偏食なんです。あとは、上級生からの圧ですか……今の子は、家でも学校でも、怒られたことがない。怒られた時に、どうしていいかわからない。そのことに対するおびえなんですよ」

 もう1つ、進路選定の大きなポイントがあるという。

【次ページ】 「親がお金、お金っていうから」

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