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朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で「取手二高」が話題に…38年前、高2の桑田&清原が敗れた甲子園決勝「取手二高vsPL学園」どんな試合だった?
posted2022/03/01 18:55
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
AFLO
3月1日に放送されたNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で、実際にあった1984年夏の甲子園決勝「取手二高対PL学園」が登場。「取手二高」がTwitterのトレンド入りするなど話題になった。
冒頭は、主人公・大月ひなた(川栄李奈)の幼馴染の藤井小夜子(新川優愛)のセリフだが、今から38年前、高校2年生だった桑田真澄、清原和博が敗れた「取手二高対PL学園」とはどんな試合だったのか? 茨城県勢初優勝のウラにあったあの名将・木内幸男の戦略とは――“伝説の決勝”を検証した記事を特別に再公開します。【初出:NumberWeb2010年4月8日】
4対3で迎えた9回裏、マスクをかぶる取手二の中島彰一は、なかば勝ったような気になっていた。
「あと3人抑えれば勝ち、もう勝ったわ。先頭バッター抑えりゃ勝ちだろう」
茨城県勢初となる深紅の大優勝旗がちらつき、中島は冷静さを失った。当たっていない1番清水哲を迎え、勝負を急いでしまう。安易にカウントを取りにいった甘い外角の真っ直ぐを、清水はレフトスタンドにたたき込んだ。土壇場で追いつかれた取手二のバッテリーは浮き足立った。エースの石田文樹は続く松本康宏に死球を与えてしまう。
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「このランナーが還ったら……」
サヨナラ負けが頭をよぎり、中島は青ざめた。そのとき、監督の木内幸男から伝令がとんだ。石田に代わって柏葉勝己。ピッチャー交代が告げられる。泣きそうな顔でライトへ走っていく石田を見て、中島は思った。
「あいつ、もう終わっちゃったな……」
ミスを犯した選手を容赦なく代えてきた木内が、大事な場面で石田を下げる。エース失格を宣告されたも同然だった。
9回裏、無死一塁。甲子園を埋め尽くした大観衆はPLの連覇を予想し、柏葉と3番鈴木英之の勝負に目を凝らした。
だが木内だけは違うところを見ていた。
練習試合でPL学園高に0対13の惨敗を喫していた取手二高。
じつはこの対戦の2カ月前、取手二とPLは練習試合をしている。水戸市民球場で行われた招待試合で、桑田真澄、清原和博のKKコンビを擁するPLに取手二は手も足も出ず、0対13と惨敗する。
わずか1安打に抑えられ、力の差を見せつけられた取手二の面々に、顔なじみの記者がやって来て追い打ちをかけた。
「桑田が言ってたよ、これが茨城県一のチームですかって。2年生に、こんなこと言わせておいていいんか」
中島は怒りが込み上げてきた。
だが、この惨敗も木内の筋書きどおりと言ったら言い過ぎだろうか。
じつはこのときの取手二は、試合どころの騒ぎではなかったのだ。
春の関東大会1回戦で法政二に接戦のすえ敗れた3年生に、木内は試合後、1週間の休養を与えた。野球から解放された部員たちは、束の間のオフを満喫する。
休みが明けて練習に復帰すると、なぜか木内が怒っていた。
「休んでいいと言ったのはレギュラーの3年生だけだ。補欠に休めと言った憶えはない。補欠は辞めろ、辞めちまえ」
3年生部員が木内監督に逆らって練習をボイコット!
3年生たちは反発した。当然だ。下級生のころから苦楽をともにし、春の選抜にも一緒に出場した仲間が、どうして理由もなく切られなければいけないのか。3年生部員は木内に反旗を翻し、練習をボイコットした。だが、当初はまとまっていた3年生の間に、練習不参加が続くと不協和音が立ち始めた。1週間あまり、侃々諤々の議論が続いた。
「俺は辞める。お前も辞めるだろうな」
「いや、ちょっと待ってくれよ」
「なんだよ、おまえだけ残んのかよ」