酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「野村克也さんの毛筆は立派」「清原和博さんは現役晩年…」サイン鑑定の第一人者が見た、達筆の野球人〈今の選手への要望も〉
posted2022/03/07 11:02
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Sankei Shimbun
西武・山川穂高の揮毫が話題になっている。筆にたっぷりと墨を含ませて一気に書いた揮毫は、雄渾で個性的だ。書きなれているなという感じもする。そういえば、プロ野球選手のサイン色紙は、野球ファン誰もが欲しがるが、達筆の野球選手っていたのだろうか?
そこで筆者は神保町の古書店『BIBLIO』を訪ねた。野球などスポーツ関連古書の専門店。店主の小野祥之さんは顔なじみだ。昔の野球選手の調べ物をするときなど、相談したりもするので、話を聞いてみた。
”価格が高くなる”サインの共通点とは
「古本業界に入ったのは1991年、独立したのは98年です。その前、95年くらいからネットで古本屋をやっていて、このころから野球の本を集めていました。今の場所で店を開いたのは2005年です」
――野球選手のサインはどういう風にして仕入れてくるのでしょうか?
「サインは、お客さんから買うしかないんです。僕はサイン関係に強いと言われているので、持ち込まれることが多いんです。
でもサインは古物商にとって怖い物件なんです。偽物が多いし、真贋の見分けがつかないので。僕は作家の真筆のサインや揮毫を扱う店で修業したので、目が利いたし、アレルギーも少なかったんです。高齢の野球関係者がお亡くなりになると“遺品整理をしてほしい”と声がかかることもあります。あと1割くらい、古本市で買うこともあります」
――サインの値段の「相場観」はどこで決まっているのでしょうか?
「それはもう僕がプライスリーダー。専門に扱っているのが、僕しかいないから(笑)。価格が高くなるのは、現役時代に超一流であること。それなりに知名度があること。それから“神話性”というか、そういうものがないと高くならない。あとは希少価値ですね」
大谷選手で言えば……
――例えば、どんな選手のサインだと値が張るんでしょうか?
「伝説の大エース、沢村栄治さんが一番高そうに見えるけど、じつは川上哲治さんと熊本工業時代にバッテリーを組んでいた吉原正喜さんの方が高いんです。戦死したんだけど、巨人では沢村ともバッテリーを組んだ伝説の名捕手で、少ししかサインをしていないから希少性があります。沢村と吉原が1枚の色紙に2人でサインをしていれば高くなる。僕はこれまで2回扱ったけど、ずいぶん高く売れました」
――現役の選手と古い選手ではどちらが高いんですか?