酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「野村克也さんの毛筆は立派」「清原和博さんは現役晩年…」サイン鑑定の第一人者が見た、達筆の野球人〈今の選手への要望も〉
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph bySankei Shimbun
posted2022/03/07 11:02
1998年、ヤクルトの野村克也監督にサインをもらう田淵幸一
「今の大谷翔平選手で言えば、瞬間最大風速が吹くんですよ。人気が盛り上がるので一時期サインの値段がぱっと上がることはたまにあります。一時期の斎藤佑樹選手や菊池雄星選手なんかもそうだった。イチローさんは2004年の262安打を打った時にも値段が上がった。でも、そのあと落ち着くんです。現役の選手はこの後まだ何枚もサイン書けるし。希少価値という部分はありません。大谷選手のボールは今、すごく高いですけど、一過性の面もあります。
今の選手は、ファンサービスで球団がたくさんサインを書かせますが、実は残念ながらサインとしての価値はほとんどありません。
沢村さん、吉原さんだけでなく苅田久徳さん、景浦將さんなど昭和、それも戦前、1リーグ時代の選手のサインは、高いですね。希少価値があるので、愛好家のニーズは常にあります。でも普通の人が『沢村栄治』と書いたサインを見ても今となってはわからないんじゃないでしょうか。うちの店まで持ってきてもらえば、僕が仕分けられますが。
僕は古本市場でも色紙を探しますが、ほとんどが“知らないおじさん”が書いたような色紙の山の中から、ときどき昔の名選手のサインが出てくることがあります。こういうのも価値がわからない人が増えているからでしょうね。もうお亡くなりになったような古い選手のものは、これから増えないので希少価値はありますね」
「達筆」と言える野球人は?
――サインの中にもボールペンで書いたものからマジック、サインペン、筆書きまでいろいろありますが、価値は違ってくる?
「やはり“毛筆をもって良し”とする日本の文化が今も生きています。昔は毛筆で書く野球人はたくさんいました。川上哲治さんはたくさん残っているし、王貞治さん、長嶋茂雄さんも頼まれて書いているものがあります。ただ昭和40年代くらいから少なくなった。最近では、原辰徳監督の毛筆が出てくるくらいです。頼まれて特別に書く人は今でもいます。野村克也さんは、亡くなる直前まで毛筆でサインを書いていました」
――サインの中身にもいろいろあるが、何が書いてあるのがいいんでしょうか?
「それは座右の銘が一番。長嶋茂雄さんなら『快打洗心』、川上哲治さんなら『不動心』、張本勲さんは『一打一生』という言葉が好きで、もとは荒川博さんも書いていました。張本さんは『喝』という色紙もありますよ(笑)」
――では小野さんから見て「達筆」と言える野球人は誰ですか?