Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
引退・小平奈緒「101%に挑戦することで…」「9割ぐらいの成功ならそれで良し」稀代のスケーターから学びたい自己肯定力
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byShunsuke Mizukami
posted2022/04/13 06:00
2020年の小平奈緒。彼女の言語化能力はアスリートとしてひときわ輝くものだ
オランダに行って自己肯定をできるように
その思考に変化をもたらしたのが、ソチ五輪後の'14年春、意を決して飛び込んだオランダの地での修行だった。オランダには10以上のプロチームがあり、小平はその中のひとつである「チーム・コンティニュ」に参加費用を払って加入した。言葉の通じない国では苦労の連続だったが、気がつけば自然と視野が広がっていた。
「誰かに認められることを求めていたのが大学時代やソチ五輪までの自分でした。でも、オランダへ行って自己肯定をできるようになったのです」
現地の文化に接しながら感じたのは、自分を認めるマインドを育もうという理念が、家庭や教育現場に根付いていることだった。
「日本の学校は成績や評価を気にしなければいけないシステムになっている。でも、オランダでは個々の実力が上がってから次のレベルに進んでいました。だから、子供のペースが遅くても親が責めることはない。何ができるようになったかにフォーカスして、認めてあげるのです」
小平が所属していたチーム内でも、自己ベストを出した選手を、たとえそのレベルがさほど高くなくても称えるというムードはきっちりと醸成されていた。
出来ない自分をその都度受け容れること
「人によって達成した時に喜びたいラインはそれぞれです。これは私にとって新しい見方でしたね。人は、それぞれにそれぞれの物差しがあり、オランダでは他人の物差しを自分の価値観に置き換えることをしない。そこに日本との違いを感じました」
現在の小平のメンタルの土台は、自己肯定できるマインドなのだ。さらに、言葉の分からないオランダでは、日本では当たり前に出来ることが出来ないという場面が多々あった。時には笑われることもあった。そこで考えたのが、「出来ない自分をその都度受け容れること」だ。
'16年春、2年間のオランダ修行を終えて帰国してからは、トレーニングに対する思考が以前と変わっていることを感じた。