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引退・小平奈緒「101%に挑戦することで…」「9割ぐらいの成功ならそれで良し」稀代のスケーターから学びたい自己肯定力
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byShunsuke Mizukami
posted2022/04/13 06:00
2020年の小平奈緒。彼女の言語化能力はアスリートとしてひときわ輝くものだ
評価の軸は人に決められるものではない
現代のスピードスケート会場はほぼ屋内だが、その土地の標高や日々変化する気圧などに大きく影響される繊細なスポーツである。不確定要素の中で戦っているからこそ、心にスペースを持っていることが臨機応変でいられるためには欠かせない。
また、全身を駆使して0.01秒を縮めることに挑むスピードスケートでは、多くのスポーツと同様に年齢との戦いからも目を背けることはできない。ところが、小平は30歳を過ぎてから大きく進化を遂げたアスリートである。そして、34歳になった今も上昇していることを感じ取っている。
「もちろん、ケガには細心の注意を払っています。ただし、体力面については、向上を目標にしながらも維持できていることにも合格点を与えるようにしています。減速の幅を少なくし、減速を遅くさせることも大事です。心や技術の面では今も変わらず加速していっていると思っていますし、総合的に成長していけば良いと思います」
このような考えを持てるのも自分で自分の評価軸を設定できているからだろう。
「評価の軸は人に決められるものではないと思います。自分の正解が誰かの正解であるとは限らないですし、その逆でもない。それにもっと大切なのは、自分の中に生まれてくる正解をたぐり寄せられるかです」
まずは足を踏み入れてみるという行動
このシーズンオフ、小平は昨秋の台風19号によって甚大な被害の出た地元長野県で、復興のためのボランティア活動を行なった。支援したいという気持ちや言葉だけでなく、実際に行動することや人々と触れあうことが、気持ちが通い合うことにつながるのだとあらためて感じた。まずは足を踏み入れてみるという行動がスケートに生きるのではないかという思いも芽生えたそうだ。
「ボランティアに関してもそうだったのですが、今回思い切って活動してみたことで、今までは不安で挑戦できなかったことに対しても思い切った行動ができるのではないかと思っています」
例えば、500mのレースでアウトコースからスタートするときは、時速60km近い速さで入っていく第2カーブの手前で、体力や筋力への不安が先入観となり、トップスピードに乗ることをためらうという精神構造になるのだという。自己防衛本能の高い女子選手は特にその傾向にある。